第十回「またのお越しを」
本物の心霊スポットと聞いて訪れてはみたものの、その廃墟を実際に見るとただ年季の入った喫茶店という感じしかしなかった。こぢんまりとした外観はベッドタウンの住宅街にしっくりと馴染んでいて、椅子やテーブルの並ぶ店内には、古い雑誌や味のある置物がおそらく営業当時のまま飾ってあり、気さくな雰囲気さえ漂わせていた。
Cさんは、期待していた心霊スポット像とのギャップに拍子抜けしながら、なにかしらの怪奇現象に出会えないかと店内を探索した。電気系統は止まっていたが、あたりには西日が差し込み、特別な照明がなくても十分な明るさだった。
せめて、夜に来た方がよかっただろうか。結局、これといったハプニングはなく、ただあたりに埃が舞うばかりだった。自宅に戻ったCさんは、少しがっかりしながら埃まみれの服を洗濯機に入れていった。ジーンズを脱いだとき、ポケットのなにかがクシャ、と鳴った。白く、柔らかい紙が覗いている。レシートだ。
広げてみたCさんは目を疑った。“ご来店ありがとうございました。喫茶◯◯”そこには、廃墟になった喫茶店の名前が書かれていた。その後には、今日の日付と時刻が、小さく印字されていた。