タイトルや表紙に「魚・海要素」があればOK
本棚には、『老人と海』『山椒魚』『どくとるマンボウ航海記』。さらに見回せば『海底二万里』に『フィッシュ・アンド・チップスの歴史 英国の食と移民』、「スイミー』。生物図鑑や釣りエッセイなんかも豊富だ。約3.5帖のスペースだが〈SAKANA BOOKS〉の名に恥じず、魚や海にまつわる1200冊以上の本がユーモアも交えてずらりと並ぶ。
『週刊つりニュース』本社ビルの1階に構えるこの店は、魚食文化や海洋環境問題、生物の面白さなどを発信するため、7月にオープン。動物や植物の専門書店はあっても、魚に特化した書店は全国でも際立つ存在で、水族館ファンや生物好きを中心にSNSで話題に。今では全国から、この店目当てで足を運ぶ人も多い。
同社の船津紘秋社長は「(創設者でもある)祖父・重人の『釣り文化を残したい』という想いを自分なりに考えて。まずは魚自体をもっと一般的に知ってもらわないといけないと思ったときに、本にしかない情報があるはずだと感じた」と開店経緯を振り返る。
釣り文化への想いがあるからこそ、釣りにとらわれずに門戸を広く開く。タイトルや表紙に「魚・海要素」があればOK、の無邪気さが大きな魅力だ。
とはいえ、書店経営の経験はなかった。船津社長は「すべてが本当に手探りで。選書もまずはタイトルと表紙を見て、片っ端から仕入れた」とはにかむ。
現在〈SAKANA BOOKS〉の運営を一手に担うのは、開店にあたり「本と魚が好きな人」と銘打ったスタッフ募集に応募してきた、浦上宥海さん。やはり書店経験はないが、大の水族館好きで、お客さんとの会話も弾む。船津社長も「選書も店づくりも任せられる。しかも名前に浦と海が入っているし。僕も船と津なので(笑)」と全幅の信頼を置く。
現在は本の他に、魚の皮から作られたレザー製品やタチウオのペーパーナイフ、海洋プラスチックごみで作られた小物入れなどもそろう。隣接する釣り文化資料館と合わせ、「海や川など自然環境にも興味を持つきっかけになってほしい」との想いが反映されている。
魚好きにも、いろんな形が、多様性がある
店の一押し本は、NPO法人「北九州・魚部」が手掛けるリトルプレス、『ぎょぶる』。全国各地の魚好きによる寄稿文や調査レポートがぎっしり詰め込まれ、船津社長も「もともとは高校の部活だった団体。でも内容は他のどんなプロにも作れないくらいしっかりしていて面白い」と太鼓判を押すレア本だ。
〈SAKANA BOOKS〉を通じて「魚好きにも、いろんな形が、多様性がある」と感じたという船津社長。「本を売って終わりではない」と語り、今後はギャラリーとしての運営やイベント開催ももくろむ。独立系書店ブームの中でもひときわ個性が光るのは、船津社長、浦上さん、そしてお客さんが純粋に魚を愛しているからに他ならない。