7年ほど昔、脚本の賞をもらった際、50人ほどの俳優たちや劇団スタッフらと祝賀会を開いてもらったのが、新宿二丁目と三丁目のちょうど間にある〈どん底〉だった。今でもあの雰囲気は忘れられない。
「居酒屋」とも「バー」とも言い切れない、「海賊たちが休む場所」のような荒々しい造りの木造3階建ての階段をギシギシと上ると、アングラ全盛期の1960〜70年代の演劇のポスターが所狭しと貼ってある。それだけでもう、物語に満ちた空間なのだと感じられてしまう。
舞台を終え、小説を書き、絵を完成させた若者たちがそのたびに叫んだ真理の数々が、この入り組んだ階段をこだまして、どこにも辿り着けずにいた。それは何年経ってもなくなったりはしてなくて、バーカウンターの下や、ランプの明かりの届かない部屋の隅、階段の裏の優しい暗がりで、今も叫ばれる同じような真理の言葉に、少しだけ目を覚ましては、また眠りについている。そんなお店であります。