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斉藤壮馬の「ただいま、ゼロ年代。」第2回 舞城王太郎『煙か土か食い物』

30代サブカル声優・斉藤壮馬が、10代のころに耽溺していたカルチャーについて偏愛的に語ります。毎月20日更新。

photo: Natsumi Kakuto(banner),Kenta Aminaka / styling: Yuuki Honda(banner) / hair&make: Shizuka Kimoto / text: Soma Saito

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舞城王太郎『煙か土か食い物』

『煙か土か食い物』を持つ斉藤壮馬

高校1年生の夏、学校に行かずに数ヶ月引きこもっていた。

特に明確な理由があったわけではないが、梶井基次郎ふうにいうならば、得体の知れない不吉な塊がぼくの心を始終おさえつけていた、というところだろうか。焦燥といおうか、嫌悪といおうか、とにかくそんな感情がないまぜになって、日中は部屋から一歩も出ることができなかった。

部屋にこもってひたすら本を読み、音楽を聴き、アニメを観て寝る毎日。それがきっかけで回り回って声優の道を志したわけだが、その話はまたいつかに譲ることにしよう。

日も暮れて、家族が寝静まったころになると、ぼくはこっそり家を抜け出して書店へ向かった。当時はまだ普段からマスクをしている人は珍しかったから、帽子もかぶって完全防備の斉藤少年はさぞ怪しかったことだろう。

そのころのぼくは、貯めてきたお金を使って本をジャケ買いするのが好きだった。ひとけのない深夜の書店で、偶然の出会いを期待して——あわよくば、何か自分にもドラマティックなことが起こらないかと期待して、棚を漁っていた。

そんな中出会ったのが、舞城王太郎『煙か土か食い物』である。

まずその意味不明ながらも訴求力のあるタイトルに惹かれ、試しにページをめくってみたら、密度と速度の振り切れた文体に衝撃が走った。これは絶対に読まなければならないと購入し、帰るや否や寝る間も惜しんで夢中で読み耽った。

アメリカのERで働く優秀な外科医・奈津川四郎は、母の怪我の知らせを受け、故郷である福井県西暁町に舞い戻る。そこでは連続主婦殴打生き埋め事件が発生しており、母はその被害者だった——。

謎を紐解いてゆく中で、父・丸雄や兄弟たちとの確執、暴力の連鎖が息をもつかせぬドライブ感で展開されるこの作品。

とにかく読んで体験しないと魅力を伝えるのが不可能な、まさに小説でしか書き得ない物語。読んだらしばらくあの文体でビジネスメールとか書いてしまいそう。ヘイ、俺のグレイテスト&ブライテストマインド!

印象的なタイトルは作中の祖母の言葉から。

〈人間死んだら煙か土か食い物や〉。

あのころも刺さったが、30代になった今でこそ、より考えさせられるフレーズだ。当時は自分や周りの人が死んだら、なんてことはファンタジーみたいな話で、フィジカルなものとしては考えられなかった。

だが年を重ね、もう会えなくなった人もたくさんいる。本の内容は変わらないが、我々の生活は刻一刻と変化していく。

次にこの本を読んだとき、自分は何を感じるだろうか。今からもう、再読が楽しみである。

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