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手で触り、使い、試して具現化する。〈Saint Lazare〉、〈A.S.L〉の机と仕事場

ある人は「机なんて、なんでもいい」と言い、またある人は「この机じゃないとダメ」と言う。創作の手助けをする道具でもあるし、体の一部みたいに親密な存在でもあって、整えたり散らかしたりを繰り返しながら、絵や言葉やデザインが生まれる。その痕跡が残る机と仕事場を訪ねた。

photo: Rie Yamada / text: Yumiko Urae / edit: Kazumi Yamamoto

デスクに引き出しを設けず、モノは私物箱や袋に整理する

パリ9区、建物中庭のさらに奥に現れる、まるで一軒家のような家屋が、デザインスタジオ〈サンラザール〉と自社デザイン製品を製作・販売する〈A.S.L〉。1つの所在地に2社の名を冠するが、変形ワンフロアの空間に一切の区切りはない。むしろ、2社は渾然一体。共に機能するために作られた仕事場だ。

入口は、白タイル張りの居心地のいいカフェカウンターと、自社デザインの家具や暮らしのオブジェを陳列する小さなショールーム兼ショップ空間。その右手には社員のデスクワーク空間が広がり、左手奥のアトリエも一続き。すべて見渡せる。

そして、紙、紐、テープ類などの小物から、ミシンや製版機、プレス機などの機械類まで機能的に整えられている。几帳面な店主が営むひと昔前のパリの古い文具店のカウンターさながらの、アトリエの収納術は圧巻と言いたくなるほどだ。

「机上のデザインやグラフィック作業と、実際のマテリアルに触れて試作や模型を製作したり、カフェでスタッフや顧客と話したり、すべてが同時進行する仕事場を作りたかった」と創設者の一人、クレモンティーヌ・ラルメ。これまでもグラフィックや家具、オブジェのデザインで「場」のアイデンティティを表現してきた。長いキャリアで培った知恵とノウハウが、このオフィスに集結する。

事務仕事の大机は、天板の3つの穴でPC周りの配線をまとめた。また、引き出しを付けないことで、机上でモノを整理をする意識を促す。2ヵ月に1度の席替えもモノを溜め込まない習慣につながり、代わりに壁面に並べた棚の私物箱や自社製クラフト袋に保管する。

「仕事場って、多くの時間を過ごす、いわば暮らしの場でもある。クリエイションのためにこそ、リアルに人と触れ合い、モノの手触りを実感する場でなくては」

デザイン&クリエイティブスタジオ Saint Lazare : A.S.Lのオフィス内
さまざまな質感の紙、テープ、紐、工具ほか、手作業で使う工作機器を使いやすく配置する、〈A.S.L〉のワークスペース。整理用の紙箱やスタンプ、机など自社製品も多数。