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読んで、走る!ランニングカルチャー。目的別ランニングBOOKS

古今東西、数々のドラマを盛り上げたあの「ランニングシーン」を一挙に振り返る。自宅にいながら、走りの醍醐味を楽しみたいアームチェアランナー必見作品をご紹介。

初出:BRUTUS No.678『世界で走ろう!』(2010年1月15日発売)

text: Mayumi Okada / edit: Kosuke Ide

ただ勝つために

『スプリンター』小山ゆう
走ることだけに人生すべてを捧げた男の物語

漫画『スプリンター』小山ゆう
日本有数の財閥コンツェルンに養子として引き取られた主人公、光はある女性と運命的な出会いをしたことでスプリントの世界へ。何不自由なく人生を送るはずだった光が、100mで10秒を切る「神の領域」を目指して、己の身を削りながら記録を縮めていく壮絶な陸上漫画。全14巻/小学館

『奈緒子』作:坂田信弘/画:中原裕
走ることで自分を表現する少年の成長物語

漫画『奈緒子』作:坂田信弘 画:中原裕
日本海にある架空の島、波切島で育った天才ランナー、壱岐雄介と宿命の女、奈緒子。短距離、駅伝、マラソンと種目を変えながらもひたすら走り続ける雄介が、かたわらで応援する奈緒子とともに心の葛藤を乗り越えて成長。走るときの気分の高揚が伝わる。全25巻/小学館文庫

逃げる、追う!

『アドルフに告ぐ』手塚治虫
世界を揺るがす秘密文書を守って走りに走る

漫画『アドルフに告ぐ』手塚治虫
ナチスの時代を生きた3人のアドルフ。彼らを結ぶ通信社勤務の峠草平は、学生時代に活躍した元陸上選手。ひょんなことからヒトラーの秘密に関わってしまった峠は、ナチスや特別高等警察から追われる身となり、駅伝で鍛えた足で追っ手をかわし、逃走劇を繰り広げる。全4巻/文春文庫

夢に向かって

『マラソンマン』井上正治
父と子の絆というタスキで結ばれた栄光への挑戦

漫画『マラソンマン』井上正治
かつて天才ランナーだった父を持つ少年が、父の遺志を継いでランナーとなり、紆余曲折を経て世界の舞台に立つまでを描いた大河漫画。父と子の絆、ゴール直前の死、良き理解者との運命的な出会い、失われた栄光など、各所にちりばめられた熱血的スポ根要素が涙を誘う。全19巻/講談社

『ニューヨーク・シティ・マラソン』村上龍
もうダメと思った先に見つかるランナーの境地

「ニューヨーク・シティ・マラソン」村上龍/著
ストリートの娼婦、ナンシーが、マラソンで客に勝てば、2,000ドルもらえるという賭けをした。「試しにあと三歩走ってみようと足を出したら、全く新しい生命が誕生したみたいに足がまた動きだした」と、ニューヨークの街を走る。『ニューヨーク・シティ・マラソン』所収/集英社文庫

あの人を救うために

『走れメロス』太宰治
「殺されるために走るのだ」。名言に涙

「走れメロス」太宰治/著
身代わりになった友を助けるため、疾風怒濤のごとくメロスは走る。途中、疲れて膝を折ったとき、信じる気持ちがくじけ、自分自身と葛藤する姿は、現代のランナーたちにも通じる精神の脆さ。簡潔な太宰の文体が、力強い勢いで胸に響く。『富嶽百景・走れメロス 他八篇』所収/ワイド版岩波文庫

健やかに生きる

『走ることについて語る時に僕の語ること』村上春樹
“走ること”に真正面から向き合った現代の名作家

『走ることについて語るときに僕の語ること』村上春樹/著
「人は誰かに勧められてランナーにはならない。人は基本的には、なるべくしてランナーになるのだ」。『羊をめぐる冒険』を書き終え、職業小説家となる決意をして以来、走り続ける著者の日常を綴る。自己が自己であるため、肉体と向き合うストイックさに強い意志を感じる。文藝春秋

『ラン』森絵都
少しだけ今と違う自分になるために

『ラン』森絵都/著
家族を事故で亡くした22歳の環が、走ることで“あちら側” にいる家族に会えると信じて、フルマラソン完走を目指す小説。トレーニングを重ねると、走ることの苦しさとともに人生の悲しみも受け入れられるようになり…。運動音痴なのにあきらめずに走り続ける奮闘っぷりにシンパシー。理論社

『長距離走者の孤独』アラン・シリトー/訳:丸谷才一、河野一郎
己の正義を貫き通すときに選ぶ手段

『長距離走者の孤独』アラン・シリトー/著
「奴らにみせつけてやるんだ。誠実とはどういうことかを」。盗みで捕まった青年が、感化院でクロスカントリーに出場。走っているときに「いかれたマラソン頭」で考えた権威への反抗や怒りで綴られる、爽快でシニカルな青春小説。集英社文庫

『ムーンライト・シャドウ』よしもとばなな
ぽっかりあいてしまったココロの穴を埋めるために

『ムーンライト・シャドウ』よしもとばなな/著
突然、恋人が死んでしまったショックでよく眠れなくなった主人公さつきは、早朝のランニングを始める。まだ明け切らない静かな青い風景のなかを、恋人が住んでいた町と自分の町との間を流れる川に架かる橋まで走っていく様子が、描写が美しく、切なく胸に響く。朝日出版社

『初秋』ロバート・B・パーカー/訳:菊池光
常にタフな自分をキープし続けるために

『初秋』ロバート・B・パーカー/著
スペンサーは、タフでクール、ジョギングと筋トレが趣味の私立探偵。今作では、依頼を通して出会った少年を自立させるため、体を鍛えさせて、10マイル走を目標に、毎日ワークアウトを行う。少年との心の交流が描かれた、シリーズ中の傑作。ハヤカワ・ミステリ文庫

走らずにいられない

『ボーイズ・オン・ザ・ラン』花沢健吾
踏みつけられながらも人生をひた走る

漫画『ボーイズ・オン・ザ・ラン』花沢健吾
20代後半、恋愛下手で仕事もダメ、傷つくのが怖くて臆病な人生を送ってきたダメサラリーマン田西が、遅咲きの青春をひた走る。愚直なまでに純粋な田西の全力疾走っぷりは目を覆いたくなるほどぶざまだけど、格好悪いことって、格好いいかもという希望も灯す。全10巻/小学館

『SPEEDBOY!』舞城王太郎
速く、もっと速く。走りに取り憑かれた男の物語

漫画『SPEEDBOY!』舞城王太郎
背中にたてがみが生えた天才少年スプリンター、成雄を取り巻く7つの物語。もっと速く走りたいと願う成雄は限界を超え、ついには音速の域にまで至るのだが…。舞城ならではのリズム感を堪能。読んでいるだけで、スピード感、躍動感とともに、心地よい高揚感が味わえる。講談社

『はしるチンチン』しりあがり寿
生きる勇気を振りまいて、世界を走るフルチン

『はしるチンチン』しりあがり寿/著
パジャマを着替えるスキをついて、3歳のコウキくんが素っ裸で町のなかを全力疾走。「チンチーン」と叫べば、強盗が驚いてナイフを落とし、子供を亡くした夫婦はコウキくんを抱きしめて涙を流す。生きる希望や勇気を振りまきながら、ずんずん走り続けるチンチン讃歌の絵本。岩崎書店