一生モノのロック大図鑑
ビートルズはデビューから解散までの8年間、メンバーチェンジを経験していない。ロックバンドにあっては稀有な例だといえる。プログレやハードロックでは脱退や新規加入が日常茶飯事。レインボーのボーカルがある日ブラック・サバスのボーカルになっていたという一例もある。もはやオリジナルメンバーが一人も在籍していないバンドも存在する。イエスやドクター・フィールグッドがそうだ。
例えばソフト・マシーンの関係者の多さは、『ゲーム・オブ・スローンズ』の登場人物の多さに匹敵し、バンドの来歴を追うのもかなり骨が折れる。しかしそんな悩みの種ともおさらばできる日がついに訪れた。このたび『ロック・ファミリー・ツリー』が翻訳されたのである。
図鑑のように分厚いこの一冊は、英米ロックの黄金期といえる1950〜70年代のバンドやシーンの人物相関図をまとめたもの。ロットリングという製図ペンで描かれた相関図はとてもキュートだ。聞き取り調査を基にした仔細な解説も読み応え十分。著者のユーモアに笑みも溢れる。そして人間関係のダイナミズムこそがロックを動かしてきたのだと視覚的にわかるのが何より楽しい。パンク勃興前夜のわちゃわちゃ感など眺めていてゾクゾクする。
ロックの歴史は天才を中心に語られがちだが、ある時期のある場所に集った才能たちの中心にいた人物を天才と呼ぶのではないか。そうした新たな視点を与えてくれる一冊だ。