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焙煎の達人がブレンドするコーヒーを味わう。東京のロースタリー9選

ブレンドコーヒーには店主の趣味嗜好が色濃く反映される。自分で豆を焼く焙煎士なら、そこに懸ける思いはなおさら強い。まだまだ増え続けている町のロースタリーの中から、ブレンドに一家言あるお店を紹介します。ブレンドこそ、焙煎士の腕の見せどころ。

photo: Koh Akazawa, Shinsaku Yasujima, Kunihiro Fukumori, Keita Sugeno, Ryosuke Kuriga, Ryoko Kawahara / text: Koji Okano, Naoto Matsumura, Emi Suzuki, Mako Yamato, Wataru Sato

GP Coffee Roaster(初台)

即興詩人のごとく、
日々の感慨をブレンドで表現。

地元・神戸のカフェでのバイト経験をきっかけに、焙煎士を志した実豪介さん。東京のサードウェーブコーヒー店に惹かれて上京するも、修業先は深煎りを得意とする横浜〈BlueDOOR Coffee〉だった。

「神戸で親しんだ味に似ていたから。いい豆を深く煎った時のキャラメルのような甘味が好きなんです」。大正時代の喫茶文化への憧れが生んだのが「浪漫ブレンド」。ロブスター種の豆の飾らない苦さが郷愁を誘う。「季節ブレンドには“桜人”“新緑”なども。自分の心象風景をブレンドの味で表現しています」

初台〈GP Coffee Roaster〉の浪漫ブレンド
「浪漫ブレンド」深煎りのブラジル、コロンビアも使用する。
初台〈GP Coffee あRoaster〉店内

GLOBE COFFEE(西小山)

個性的な豆を掛け合わせ、
味わいに奥行きを与える。

堀口珈琲〉でブラジルを飲んで衝撃を受けた店主・増本敏史さん。「フルーティで爽やかなのに、コク深くて。堀口珈琲のセミナーに7年通いました」。堀口俊英氏の精神を受け継ぎ、ブレンドに力を入れる。

「直火式の焙煎機だと豆の個性が引き立つんです。これらを混ぜて味に奥行きを与えます」。中深煎り「SAVOY」はケニアの果実感を押し広げる、コロンビアの凜としたコクが印象的。深煎り「GLOBE」は、グアテマラとコロンビアが甘味・ボディ感を引き立て合う。ブレンドの可能性を再認識させてくれる一軒だ。

西小山〈GLOBE COFFEE〉のSAVOY
「SAVOY」酸・苦味が調和した朝の目覚めに最適な一杯。
西小山〈GLOBE COFFEE〉店内

コフィノワ(蔵前)

豆の個性を抑えつつ、
新たなフレーバーを生み出す。

「Umaya Blend」用の豆をすべて投入して焙煎機を動かす店主・高橋史郎さん。「ケニアの酸味、グアテマラのボディ感を抑えつつ、ブラジルとコロンビアで調和をとります。すべての豆を一度に焙煎する“プレミックス”で、シングルオリジンにはない味わいのハーモニーを出したいんです」。

一方「カツラブレンド」は豆ごとに焼いてから混ぜる“アフターミックス”。2つを併用できるのは業務用コーヒー卸で長年焙煎士を務めた腕前ゆえだ。また高橋さんは「米国コーヒー品質協会認定Qグレーダー」などの資格も持つ。

蔵前〈コフィノワ〉のUmaya Blend
「Umaya Blend」フレンチローストのほかにブレンドは3種。
蔵前〈コフィノワ〉店内

Beastie Coffee Club Tokyo(三軒茶屋)

ドリップの用途別に作り上げた
3種類のブレンド。

思い思いにくつろげるサロンやクラブのような店を目指し、お店を切り盛りする坂田健さんが空間をプロデュース。そこに寄り添うコーヒーの焙煎を手がけるのは、共同経営者の弓削伸弘さん。鮮度が落ちないように気を配り、小回りが利く1kg釜で、ふっくらとムラなく火入れすることを心がけている。

いつ飲んでも変わらない味を作るために、看板は3種類のブレンド。No.1はペーパードリップ、No.2はエスプレッソマシン、ジャパントラッドはネルドリップと、抽出する器具に合わせて豆と焙煎度合いを変えている。

三軒茶屋〈Beastie Coffee Club T okyo〉のジャパントラッド
「ジャパントラッド」強いボディ感のマンデリンを軸とした深煎り。
三軒茶屋〈Beastie Coffee Club T okyo〉店内

ONIBUS COFFEE 八雲(都立大学)

ブレンド専用の豆を
ダイレクトトレードで仕入れる。

焙煎所とカフェ、コーヒートレーニング施設を備えた〈ONIBUS COFFEE〉の3店舗目となる旗艦店。外からも見渡せる広い焙煎所には、今まで使用していた最新のディートリッヒに加え、1960年代のプロバット社のヴィンテージロースターを導入。

豆のキャラクターに合わせて新旧2台のマシンを使い分ける。シングルだけでなく、ブレンドの豆にもこだわり、「ONIBUSブレンド」だけに使うブラジル豆を、農園の一区画を独占契約して仕入れている。それによってさらに質が高く、安定したブレンドを提供できるようになった。

都立大学〈ONIBUS COFFEE 八雲〉のONIBUSブレンド
「ONIBUSブレンド」口全体に広がる甘さとその後に続く果実感。
都立大学〈ONIBUS COFFEE 八雲〉店内

THE COFFEESHOP ROAST WORKS(駒場東大前)

豆本来の甘さが際立つ一杯は、
砂糖いらず⁉

シグネチャーブレンド「Light Mix」から伝わるふくよかな甘味。飲み終えてもスイートな余韻が続く。「うちの店には砂糖がありません。半熱風式焙煎機の蓄熱性を生かして、最大限に豆の甘味を引き出します」と店長・萩原大智さん。中米の豆の明るい酸味、ブラジルの程よい苦味が加わり、ほっと落ち着ける一杯に。

「ブレンドは毎日飲めるような優しい飲み口がベスト。対してシングルオリジンは豆の個性が出るように焙煎します」。深煎りの「Dark Mix」もオンメニュー。滑らかな苦味のあと、芳醇な甘味が広がる。

駒場東大前〈THE COFFEESHOP ROAST WORKS〉のLight Mix
「Light Mix」中煎りブラジルがベースで飲みやすい味。
駒場東大前〈THE COFFEESHOP ROAST WORKS〉店内

DELECTO COFFEE ROASTERS(代々木上原)

理論派の焙煎士が守り続ける、
ブレンドのハーモニー。

「ブレンドに必要なのは新しい味の創造。ただし“調和美”も大切です」。〈カフェ・バッハ〉に魅せられてセミナーに通った店主・田治俊行さん。業界の師・田口護さんの哲学を踏襲して、同じ焙煎度の豆を均等に配合する。中深煎り「DELECTOブレンド」に甘さとコクを添えるコロンビアのスペシャルティ。

「以前は別の農園のコロンビアを使っていましたが、仕入れがストップ。でもよく似たテロワールの豆と出会えて、焙煎の微調整だけで“調和美”を守れました」。自らの仕事を分解・再構築し、ブレのない一杯を提供する。

代々木上原〈DELECTO COFFEE ROASTERS〉のDELECTOブレンド
「DELECTOブレンド」4種の豆を配合。バランスのとれた飲み口。
代々木上原〈DELECTO COFFEE ROASTERS〉店内

ロストロ(代々木公園)

焙煎の達人が考案する、
その瞬間だけのブレンド。

飲食店向けのスペシャルティコーヒー専門卸〈ROSTRO JAPAN〉のアンテナショップ。10種以上のブレンドを販売し、2019年『国際カフェティスティング競技会』のエスプレッソ部門で中煎り「SOLEIL」が金賞を受賞するなど、代表・清水慶一さんの高い焙煎技術が光る。併設の喫茶カウンターはメニューなし。

理想の一杯を仕上げるべく、専門のスタッフが詳細に要望を聞いてくれるからだ。60種以上の豆をブレンド、アンティークの手動ミルで細かく挽き目を調整したり。その瞬間だけのブレンドが提供される。

代々木公園〈ロストロ〉のOriginal Blend
「Original Blend」焙煎度や味の異なる10以上のブレンドが揃う。
代々木公園〈ロストロ〉店内

EAST END WHITE ~coffee~(東久留米)

温故知新の姿勢が生む、
ノーウェーブなブレンド。

1950年代アメリカのモダンジャズが流れ、ビートニクの詩人アレン・ギンズバーグの作品が書棚を飾る店内。焙煎室で店主・志藤雄一さんが操るのも昭和の遺産、通称“ブタ釜”と呼ばれる直火式ロースターだ。「火力の調整などすべてが手動。時代遅れな機械だけど、手間がかかるからこそ自分の作品になります」。

深煎りブレンドに力を入れるのも、日本の伝統的な喫茶文化に敬意があるから。「NAGI(凪)」は尖りある苦味のあと、柔らかな甘味の余韻が。波のない海辺でまどろんでいるような、深い安堵感も与えてくれる。

東久留米〈EAST END WHITE ~coffee~〉のNAGI BLEND
「NAGI BLEND」フレンチローストのマンデリンなどをMIX。
東久留米〈EAST END WHITE ~coffee~〉店内