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建築家・塚本由晴が語る。なぜ今リノベーションが面白いのか

いま次世代の建築家を中心に、リノベーションから面白い建築が生まれています。若い才能が集まり、新築よりも建築の可能性を育む、豊かな土壌になっているんです。「約束建築」。既にそこにある住宅資源が、一体どんな建築や価値に生まれ変わるのか。2015年のハウジングプランは、このリノベーションから始まります。

Text: Naoko Aono

リノベーションは建築デザインの一潮流としてすでに市民権を得ています。日本では1980年代に倉庫を改造したクラブやレストランができたのがはしり。でもあと10年持てばいいというような、寂しい、貧しいリノベーションも多いですね。

もともとストックを活用することが盛んなイタリアなどでは街の真ん中に廃墟があっても何十年、何百年もそのままになっていたりする。使い方が見つからないなら見つかるまで待とう、という発想なんです。当時の日本の事例は真の意味のリノベーションではなくて、そのシミュレーションだったと思います。

ところが2000年頃になって状況が少し変わってきた。一つは環境問題やサステイナビリティ(持続可能性)が言われるようになり、建物を長持ちさせる、再生させるリノベーションに注目が集まるようになったこと。

もう一つは不動産取引と改修設計をワンストップでできるようなサービスが登場したことです。今では大会社も中古物件の取引やリノベーションに投資する時代になっています。

もちろんそういったビジネスモデルも重要ですが、私たちはそれとは少し違うリノベーションの可能性を考えています。それを「非施設型の空間」と呼んでいるのですが、20世紀に支配的だった「施設型の空間」と対比されるものです。

日本が近代化するにあたって定めた社会制度(概念)が先行し、それを建築として物質化したのが「施設型の空間」。

近代国家には教育や医療、文化が必要だから学校や病院、美術館、図書館が造られました。人々はその空間を経験することにより近代的なふるまいを身につけてきました。この「施設型の空間」がちょうど近代化、戦災復興など、生産性の高さが求められる時代を牽引しました。

それに対して「非施設型の空間」とは概念ではなく、人やモノのふるまいが先行する空間です。先に定められた基準に合わせて善悪を決めるのではなく、相手を受け入れたうえでやり方を決めるという意味で、“ケアの倫理学”に共鳴するものだと思います。

被災者のための住宅やまちづくり、地域のパブリックスペースなどでは、その場所にすでにある個々の事情に合わせふるまいを資源に変える方法が必要です。

今、人々は「施設型の空間」でのふるまいに窮屈さを感じていて、そこからはみ出したふるまいに飢えている。人々のふるまいから空間が浮かび上がってくる「非施設型の空間」はそれを勇気づけるものです。

例えば私たちが手がけた〈みやしたこうえん〉(*1)ではいろんな人たちがダンスや演劇、新しいスポーツの練習をしている。同じスキルを共有していればダンスなどを通じて空間が生まれてくるのです。またそこは楽しみ、喜びながら互いに学び合い、教え合う場になる。

もちろん従来の「施設型の空間」はなくなるわけではありません。それがなくて困っている遠隔地もまだまだあります。でも都市部の施設型の空間は高いセキュリティや管理側の説明責任が求められるようになり、使用上のルールが細かく決められるようになってきました。

若い建築家たちが懸命に取り組んでいるリノベーションや仮設の建築物は、人々の「施設型の空間」の息苦しさから逃れたい願望に応えるものではないでしょうか。

日本のリノベーションは今がピークかもしれません。戦後、大量に建てられた建物が築50〜60年になり、あと10〜20年もすれば建て替えることになるからです。建物の晩年を有効活用しようというわけです。
環境問題やライフサイクルコストに敏感になり、社会的なサポーターもたくさんいる。新築より勢いがあるように見えるのはそのためでしょう。

ただ一つ注意したいのは、建物の寿命を短くするようなリノベーションはダメだということ。建物に穴を開けたり、切り開いたりしたゴードン・マッタ=クラーク(*2)というアーティストがいますが、あれはアートです。
私たちも水戸芸術館の企画で木造家屋の中に草を生やした〈植物の家〉(*3)を造ったことがありますが、あの家も壊すことが前提だったので、アートのつもりで取り組んだものです。

建築の仕事の場合は長持ちさせること、継続させることを目指すべきでしょう。依頼主が最後のユーザーだと決めつけず、次の人につなぐ気持ちで取り組みたい。そのためには、先につなげられる余白をつぶさないように設計することが重要だと思います。

リノベーションの面白さは今の時間とその少し前の時間というように、いろいろな時間軸が重なっているところです。

私たちの事務所兼自宅〈ハウス&アトリエ・ワン〉は、実際は新築なのですが、ときどき「リノベーションですか?」と言われます。新築でも躯体が完成してから仕上げなどを足していくまでのわずかな時間の差を広げる工夫をするとリノベーション的に見えるのでしょう。

また自分の手で家を建てるのはかなり大変ですが、リノベーションなら元があるので取り組みやすい。自分の手で造ることでスキルも身につきます。

考えてみれば、昔は自分たちで家を建てたり、ちょっとした不具合は直してしまうか、近所付き合いのある大工に頼んでいたわけです。現代の建築は産業化・専門化されすぎていて顔の見えるコミュニティの中で造ったり直したりできない。材料も世界中から集められてくる。

でもリノベーションなら自分たちで、身の回りのものを使って造る余地があります。自分の手を動かすことで身体性をその建築に入れ込むこともできる。21世紀はリノベーションを含むいろいろな方法で建築を人々の側に取り戻す、そんな時代になると思います。