アメリカへの帰国途中に
立ち寄ったウィーンで
火事を目撃したとき
暗闇に浮かぶ真っ赤な炎を映しながら、「遠くに火事を見た」「ウィーンが燃えていたのだ」と淡々と語るナレーションを聞いて、この“旅”の終わりを感じました。この“旅”というのは、タイトルにある通りリトアニア行のこと。
本作の中心は監督のジョナス・メカスがアメリカに亡命して以来、27年ぶりに訪れた故郷で過ごす時間の記録です。彼が生まれ育った町セメニシュケイは、みずみずしいグリーンが映える場所。
それも、“子供の頃に植えた”という小さな苗木が生長してできた森や、“生家”の庭に茂る草木など、彼自身の記憶と強く結びついたものばかり。

カメラを向けるのは「ソビエト化されたリトアニアの生活の実態」といった大きな物語ではなく、メカスの記憶にあるもののみ。風景や家族、食べ物にフォーカスするたびに語られる彼の追憶が、こちらにもだんだん響いてきて、心掴まれるんです。
美しい思い出に浸りながら散策した場所から離れ、帰路に就き、そのさなかに遭遇したこの火事には、一気に現実に引き戻される気持ちになりました。それはちょうどメカス自身の旅の終わりであると同時に、作品を観賞しているこちらにもこの映画の終わりを予感させるんです。
