道内の飲食店、造り手たちとともに、食の文化を耕す
東京や京阪神といった大消費地から遠く離れた場所で、独自に道を拓いてきた、〈円山屋今村昇平商店〉の今村昇平さん。ナチュラルを柱にする酒販店としても古参の一角だ。
20代前半でワインにハマり、DRCや五大シャトーも飲んでいたという彼だが、2000年、「価値観が覆される」造り手たちに出会う。エリック・カルキュにピエール・オヴェルノワ、ドメーヌ・ド・ペイラ……。偉大なワインに通じる何かがあり、値段は驚くほど安い。「買えるだけ買った」と、振り返る。楽天市場でネット販売を始め、05年に独立した。
即、着手したのがレストランの開業。知られざるワインたち、“飲める場”が必要だった。札幌の有名店のシェフを迎えたフレンチは盛況で、3店舗にまで拡大。11年には自社輸入を始める。
「創業時から考えていたことだけれど、人の縁がつなぐ酒。機が巡ってきた時がやるべき時、と」
流行っていたレストランは潔く譲渡し、輸入・販売に専心する。その頃には、飲食店の取引先も増え始めていた。今や札幌市内、道内各地に卸先があるが、営業をかけたことは一度もないという。
「飲食店の人たちもプロ。自分からアプローチし、選んだものじゃないと薦められないでしょう」
まだ競合が少なかった時代、東北や首都圏への進出も可能だったが「規模の拡大には興味がない、地域の食文化を耕すことが役目」と、一貫してきた。北海道の造り手たちを紹介し始めたのも、そんな理由から。30年近くあらゆるワインを飲んできた彼が「偉大な産地、造り手たち」と、言葉に熱を込める。
15年からは道内生産者、インポーターと札幌市内の飲食店を会場にしたワインイベントを開催している。海外の生産者も招いての会は、造り手たちもとても楽しみにしているそうだ。
商圏は遠いが、産地は近い。現在は農業研修も始め、週に2、3度、北海道三笠市の畑に通う。どんな実を結ぶかは未知。でも着実に、新たな地平を開き続けている。