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いま知りたい、新世代の器作家・打田翠。心を揺さぶる、滑らかな造形と繊細な景色

国内のみならず、海外からも注目を集める若手作家の台頭が目覚ましい。先達たちが築いてきた日用の器の美しさやアートとしての挑戦の先に、目指すところも、制作の技法もそれぞれに異なる新世代の器作家たちは、いま何を考え、何に夢中になっているのか。1983年生まれの陶芸家・打田翠のアトリエを訪ね、聞きました。

photo: Yoshiko Watanabe / text: Mako Yamato / edit: Tami Okano

手びねりで生み出される滑らかな造形と、有機的なグラデーションの色合い。オブジェから食卓の器まで、穏やかでありながら、放つ存在感に圧倒される作品の作り手が打田翠だ。

「大学に入って粘土に触れ、まだ作品とは何かを理解しないうちから、将来も作り続けると感じました。当時も今も作りたいものは変わらなくて、空や景色を見てわーっと込み上げてくる感動を形にしたいんです」

20年以上ブレずにテーマを貫き通していることに驚く。ただ技法は大きく異なり、当初は練り込みの轆轤(ろくろ)で作品作りを行っていたという。

「多治見に来てからは、自分自身の造形に対する気持ちが強いことを認識し、形を少しずつ整えられる手びねりの工法に取り組むようになりました。形にメッセージ性はなく、好みそのものです。スケッチは何枚も何枚も描きます。どんな形にも黄金比はあり、描くことでその黄金比を探っているのかもしれません」

手びねりであっても手跡は残したくないと言う打田は、形を作り乾かしたあとで徹底的に削り、ヤスリをかけて仕上げる。手びねりゆえのアシンメトリーと揺らぎを持つ作品は、そんな幾重もの工程から生み出されている。もう一つ、打田の作品を印象づけるのがマットな質感と色。どちらも“焼き”がもたらす表現だ。

陶芸家・打田翠の作品
籾殻の跡が表情として残るオブジェ。

「練り込みの時代は、焼きに関しては想像通り。それが窮屈に感じ始め、焼くことで生じる陶芸ならではの変化を楽しみたい、と。そこで試してみたのが低温で短時間焼いて熱いうちに取り出し、籾殻(もみがら)に入れて色をつける楽焼の焼成方法でした」

楽焼に手応えを感じたタイミングで、現在も愛用するパワーのある窯を譲り受けることができたのも幸い。曖昧な色合いとマットな質感を探り当てるため、温度や釉薬の濃さなどを徹底的に試作し、「自分なりの楽焼」を完成させた。

その後も、打田の進化は止まらなかった。5年ほど経つと、今度は楽焼では難しい大きな作品が作りたくなり、ある日、成形した大きな鉢をたまたま籾殻に埋めて炭化焼成させてみたら、思い描いているものに近い作品に出会えたという。

籾殻のない部分から完全に覆われた部分まで、そこに自然を写したようなグラデーションが現れたのだ。もちろん炎のバランスには人の手が及ばず、決して同じものは作れない。その日から9年を経た今も、打田は精度を高めるべく形を整え、焼き続ける。

「形と色とで表現したいのは、心を掻(か)き立てる美しいもの。見る人の心象風景と結びつくもの。そのために、私はただ、自分が美しいと思うものを作り続けるしかないから」