引き込まれるかのような複雑な青、金属のように輝く黒に、深みのある黒。小野象平の器には強さがある。その手法は通常とは全く違う。
「繰り返し焚(た)いていきます。3度、4度と焚いていると、バカと言われますよ。硬化した器に何度も火を入れると破損のリスクが高くなり、タブーといわれていますが、それ以上に格段に面白くなるんです」
一般的な陶芸は、土で作った生地を素焼きして水分や不純物を除き、そこに釉薬をかけて本焼きして完成する。しかし小野は温度と圧力を細かく調整し、1度目で釉薬を完全に溶かし切り、2度目でその状態をキープ。さらに3度目以降で土の中の鉱物が現れ、マグマのように釉薬が流れていくのだという。
「空気をほとんど入れずに焼成する強還元という方法で、鉄分を多く含む高知の赤土と釉薬の金属が反応してこういう現象が起きるのです。温度や圧力が下がってきた時に結晶化するので、落ちていく時間が大切。火を止めてからが勝負です」
代表作の一つ、青灰釉は赤土に地元のヒノキの灰をかけ、灰の中に微妙に入っている金属が青に発色していく。ここまでこだわるのは、土を自分で掘って、時間をかけて生成しているから。灰釉のためのヒノキも近隣の山で採ってきたものだ。だからこそ愛情がある。
最初は満足いかない作品を捨てられず、どうにかできないかと考えて行き着いた手法だった。食器なら150個くらいは入る大型のガス窯を毎週焚き、その工程から完成まで4日間はかかる。
「窯焚きは、圧力を扱うのでかなりセンシティブ。寝られないこともあります。展覧会のために作るのではなく、作り続けることが日常。この方法は歩留まりが悪く、効率を求めてできる仕事ではありません。けれど自分だけの焼き物ができる。それを追い求めていきたいのです」
5年ほど前からは、朽ちていく美しさを見出した錆シリーズを新たに発表している。銅や鉄の釉薬で1ヵ月くらいかけて錆を育て、一番いいところでコーティングしその姿をとどめるというものだ。いわゆる生活の白い器や古陶といった伝統的な器を考えたこともあったが、現在は気にならなくなったという。料理をのせて完成する器とは違う。それがコレクターたちの収集癖を刺激する。
最近は、洋服を選ぶように器も選んでほしいと、器のギャラリー以外、ファッションのセレクトショップなどでの展示が増えてきた。
「自分が見せたい場所で、見せたい相手、僕と同じ感覚で、同じ音楽を聴いていたかもしれない人たちに届けたいなと思っています」