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誰かが喜ぶ器を作りたい。陶芸家・成田周平、鮫島陽が生み出す愛嬌とモダンな色気

国内のみならず、海外からも注目を集める若手作家の台頭が目覚ましい。先達たちが築いてきた日用の器の美しさやアートとしての挑戦の先に、新世代の器作家たちは、いま何を考え、何に夢中になっているのか。目指すところも、制作の技法もそれぞれに異なる、1980年以降生まれの器作家のアトリエを訪ね、聞きました。

photo: Keisuke Fukamizu / text: Masae Wako

理想の器を尋ねたところ、しばし考えて「かわいいもの」と答えたのは、コロンと肉厚のマグカップやリム皿で人気の成田周平。片や、「横から見た丸いシルエットが大事。イメージする形が明確にあります」と話すのは、炭化焼成の技法でモダンなスープ皿や色気のある花器を作る鮫島 陽。

技法もキャラクターも異なる陶芸家夫妻は、愛知県豊明(とよあけ)市に暮らしている。成田の実家の一部を改装した土間の空間が、2人共用の工房。それぞれの作業机を置き、成田は手びねり、鮫島は轆轤(ろくろ)で成形する。

陶芸家・成田周平と鮫島陽の工房 外観
工房の前には、灯油窯を備えた2人共用の窯場。
陶芸家・成田周平と鮫島陽の工房内
自分たちで改装した工房内の一角。土壁を生かし、床はモルタルの木ゴテ仕上げ。

鮫島の、薄手なのに豊潤な丸みを持つフォルムは、もともとアスリートだった彼女の身体能力と、卓越した轆轤技術から生まれるもの。

「美しいと思う形はずっと変わらないけれど、器の表情は、低めの温度で焼成した柔らかい感じが今の気分。焼かれる前の土の優しさを残したい」

成形した器は釉薬をかけず、籾殻と一緒に窯で焼成する。器の表面に現れるのは、炭素による水墨画のようなグラデーションだ。「私は器作りを通して美しい世界を見ているんだなって、毎回思います」

一方の成田は、手びねりゆえのプリミティブな質感や分厚さを、愛嬌ある形として昇華させる。用いるのは「玉づくり」という技法。ゴロンとした土の塊を手の中で形にする。

「マグカップの縁は、薄い方が飲みやすいけれど、厚めに見えた方がかわいい。でも、その縁にはある程度の“角”をつけて、かわいくなりすぎないよう気をつけています」

ちょうどよい加減を手の中で探りながら形作るため、マグカップ一つ成形するのに30分以上。その後も水で溶いた顔料を塗ってから石や乳棒で磨いたり、焼成後に漆を薄く塗ってさらに低温で焼き付けたりと、手間をかけることで、心地よいと思えるテクスチャーを生み出している。

ぽこぽこした指跡も特徴で、「意識的に残しているわけではありませんが、適度に凹凸がある方が、顔料や漆をかけて磨く時に良い表情が出る。この凹凸を完全に削り落とすと、のっぺりしてしまうんです」。

最近は釉薬を施した白い器も手がけている。ペンキや紙粘土を思わせるペタッとした白は、ナポリタンやオムレツが似合うポップな佇まいだ。成田も鮫島も料理好きゆえ、どちらの器も食べ物が映える。真っ赤なトマトを盛った成田のリム皿も、ポタージュを注いだ鮫島のスープ皿も、見とれるほど美しい。普通の野菜がこんなにおいしそうに見えるなんて。

「一回でも多く使ってもらえることが一番うれしい」と2人は言う。工法は違えど、土に向かう姿勢は同じ。誰かを喜ばせる器を目指している。