私の本棚の、主。芸人・やついいちろう

折に触れて読み返したり、一読の衝撃が忘れられなかったり。あるいは、腐れ縁のようになぜかずっと捨てられなかったり。自身の本棚に鎮座する“主(ぬし)”のような本を題材に、芸人・やついいちろうさんがエッセイをしたためた。

illustration: Tomo Oriyama / edit: Emi Fukushima

初期衝動を呼びさます宮沢章夫の筆跡

引越してまず部屋に運び込まれたのは本棚だった。リビングの全面を本棚にして好きな本やCDに囲まれて生活したかったから、知り合いの職人に特注で部屋に合わせて作ってもらったのだ。そこにまず置いたのが宮沢章夫さんの『彼岸からの言葉』だった。それからもう15年ほどずっとこの本は本棚のいつでも手に取れる場所に置いてある。初めて読んだのは高校生の時。CITY BOYSさんや竹中直人さんが好きで色々掘ってるうちに宮沢章夫さんに出会った。「この人が作演で全部作ってるのか」と田舎の高校生は興味を持ったのだが、伝説のコントユニット〈ラジカル・ガジベリビンバ・システム〉はすでに解散していて何も観ることができない。今ならスマホで調べればいくらでも情報は出てくるが、この時代はインターネットなんて便利なものはなかったので情報は古い雑誌を調べたり人から聞くしかなかった。そんな中ある雑誌でスチャダラパーのシンコさんがオススメの作家として宮沢章夫さんを取り上げているのを見つけた。どうやら本を一冊出しているらしい。読みたい!すぐ本屋に行くがなく、古本屋を何軒も回ってやっと見つけたのが『彼岸からの言葉』だった。苦労した分見つけた時の喜びは半端なかった。チャリですぐ家に帰り読んだ。面白くてびっくりした。テレビを見て笑う事はあったが本を読んで声を出して笑ってしまったのは初めての体験だった。この時この本から受け取った初期衝動が今も僕を動かしている。なのでいつも目に入る所に置く。高校生の自分が今も本棚から僕を見つめている。

『彼岸からの言葉』宮沢章夫/著
大きな飴を誇らしげに口に含み、最終的に苦しむ人、精神科の待合室で奇妙な言葉を繰り返す老人、お礼を独特の表現で伝える男……日常で出会った人間の奇妙な暗部についてユーモラスに綴ったエッセイ集。初版発行は1990年。KADOKAWA/品切れ。
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