小説という新境地
“けんちゃん”は特別支援学校に通う高校3年生。こだまさんがかつて勤めた寄宿舎で出会った青年がモデルだ。
「彼はとにかく自由なんです。絵を描き、新聞を作り、音楽を奏でる。話しているそばからどんどん空想の世界に入っていく。その奔放さに惹かれて、いつか小説で書きたいなと思い続けてきました」
しかし、こだまさんは書きあぐねた。私小説やエッセイとは勝手が違ったという。
「結果的に9年もかかりました。事実を書くのに慣れすぎて、小説を書くと嘘をつくような居心地の悪さがあって。周りからは“なんでも書ける小説は自由なはずなのに”と言われました(笑)。すらすら書けたのは自分が見てきた田舎の風景描写くらいかもしれません」
舞台は厳寒の北国だが、こだまさんの端正な筆致により、親しみすら覚える。壮大な雪景色や澄んだ空気で煌(きら)めく窓外の夜景、鮮やかなナナカマド。美しい自然の中で、けんちゃんに影響を受けた大人たちは、かたくなだった心をほぐしていく。
「彼は自分の思うままに、やりたいことを思いっきりやります。そんなけんちゃんの魅力が、少しでも伝われば嬉しいです」
