「2022年に、16年間いた新潮社を退職しました。採用試験に3回目でやっと受かり、憧れていた文芸編集者として、小説新潮編集部に8年間、出版部に5年間在籍していました。会社員時代は40〜50人の作家さんを担当しながらたくさんのことを経験させてもらいました。
ただ、30代半ばくらいで、私はいつまでこの働き方をして生きていくんだろう、って思ったんです。働き方改革で徐々に変わってはいたのですが、一人だけ昭和な働き方をしていた。ちょうどその頃に、自分と同じ年の方が亡くなったんです。その時、あ、私もいつ死ぬかわからないんだって思った。
もう死んでしまうかもしれないのに、やりたいことが全部できておらず、道筋もまだ見えていない。最短距離でそれをするにはどうしたらいいかを考えて、できるうちにやってやろうという気持ちで、会社を辞めました。そして23年に一人で始めたのが、出版社〈ミモザブックス〉です」
11月に発売された『宝島』は〈ミモザブックス〉が刊行する「GIFT STORY -Birthday-」の第3弾。シリーズすべてに美しい装丁が施されている。

「GIFT STORY ーBirthdayー」シリーズの第3弾。御朱印帳のような蛇腹折りの和本。奈良の閉業した呉服屋に残っていた反物が表紙に使われ一冊ずつ柄が異なる。福の神・恵比寿さまが宝船から落ちてしまい……。5,500円。
「どれも本当に装丁にこだわっているのですが、特装本は新しい読者と繫がるためのアプローチの一つです。本が売れないといわれている今、どうしたら買ってもらえるかをずっと考えてきました。結局、今の時代に電子ではなく、わざわざ紙で買ってくれるのは、物語の中身だけでなく、その紙の質感や温かさを感じてくれているのだと思います。
そして始めたのが、誕生日プレゼントに特化した『GIFT STORY-Birthday-』シリーズ。本ってマニアでもない限り1人1冊が基本ですよね。それだとやっぱりビジネスとして広がりづらい。1人が何冊も買ってくれるようにするにはどうしたらいいんだろう?と考えて、ギフトという発想を取り入れることにしました。
自分用に買ってもいいし、誰かにプレゼントしたり、もらった人がまた別の誰かへのプレゼントに選んだりすれば、物語が広がっていく。値段も、大学生20人くらいにアンケートを取って、プレゼントへかける金額の相場を探りました。内容は書き下ろし。装丁はブックデザイナーの名久井直子さんにお願いして、毎回職人さんたちの手によって素敵に仕上げていただいています」
会社員を辞めた後も、文芸編集者として物語を届けることを大切にしている照山さん。その思いとは。
「著者の方々と、家族や友達にも言わないようなことを話し合いながら、一緒に読者を喜ばせられるものを作っていけるってなかなかない仕事。エンタメ小説って、違いを超えて人の心に届く力があるんです。だから私はずっとエンタメを届けることにこだわっている。
〈ミモザブックス〉では新人作家さんのサポートにも力を入れていて、お金のことや編集者との関わり方など、クローズドで相談できる場を作っています。次世代の書き手だけでなく、次世代の読み手も意識していて、若い人たちに手に取ってもらえるような書籍のシリーズを準備中です。
物語には世界を変える力があると私は本気で信じているので、より良い社会になってほしいという願いを物語を通して伝えていけたらと思っています」


