バーの扉はもっと気軽に、もっと楽しく開けられる。〈N-BAR〉バーテンダー・若林将太さんに会いに、川崎市梶が谷へ

バーといえば入りづらい、堅苦しい、お酒に詳しくなければNG……というイメージはもう昔の話。時代は“モノ”から“コト”、そして“トキ”へと消費に対する価値観が変わり、その時、その場所でしか味わえないバーでの体験が改めて注目されている。お酒が飲めなくてもバーへ行く人たちが増えている背景にあるのは、その体験を求める新しいカルチャーが広がっているから。さっそく、その扉を開けてみよう。

PR: SUNTORY / photo: Shin-ichi Yokoyama / text: Asako Ishikawa

バーは人。この人に会いたい、というバーテンダーを見つければいい

普段バーでよく飲んだり、行きつけのバーがあったり、好きなカクテルや注文するお酒が決まっている人はどのくらいいるだろうか。

「ハードルが高くて……ちょっと興味はあるけど」「お酒の知識が全然ないから、入っていいのか迷う」「お気に入りのバーに通ってみたいけど、どうすれば?」という人も、きっと多いはず。

でも、そんな心配はまったく要らない。お酒やカクテルの名前を知らなくても、バーに慣れていなくても、そのカウンターに立つバーテンダーが教えてくれるから。

新しいお酒やそれらを使った新しいカクテルが次々と生まれている中で、知らないのは当たり前。わからないことは、何でも聞いてほしいとバーテンダーは思っているのだ。

日本のバーテンダーはその技術やホスピタリティが世界的に認められていて、国内外で活躍する名バーテンダーも多く、とてもレベルが高い。カウンターに座ったら、そんな彼らに頼ればいい。喜んでバーの世界へと導き、その魅力を伝えてくれる。

好みの一杯との出会い方、飲み方とは?

今回訪れるのは、川崎市梶が谷の〈N-BAR〉。駅から少し離れた住宅街の中に、ひっそりと佇むバーだ。カウンターで迎えてくれるのは、店長の若林将太さん。2025年の「サントリー ザ・バーテンダーアワード」という大会で優勝している。

この大会は全国から約500名のバーテンダーが参加し、カクテルの技術はもちろん、そのホスピタリティも重視し、評価されるというもの。1994年から開催されてきた、バーテンダー憧れの歴史ある大会だ。その栄冠を掴んだ若林さんがいるのだから、初心者でも安心して訪ねられる。

N-BAR 外観
梶が谷の住宅街に溶け込む〈N-BAR〉。

ここまで来たら、あとはこの扉を開くだけ。

はじめは誰だって期待と不安が入り交じるけれど、入ってしまえばここでしか得られない新しい出会い、体験が待っている。

バーカウンターに立つ若林将太さん

「いらっしゃいませ」

N-BARのバーテンダー・若林将太さん
映画『カクテル』や漫画『バーテンダー』を見て、この職業を志したという若林将太さん。

カウンターの向こうから、若林さんが「こちらへどうぞ」と案内してくれた。その席に座ったら、まずはひと息つこう。

「今日も寒いですね。お近くですか?」

おしぼりとコースターを差し出しながら、若林さんが話しかけてくれる。バックバーにはボトルがたくさん並んでいるけれど、見たことがないお酒ばかりでも大丈夫。

「普段、どのようなものを召し上がりますか?お客さまのお好みに合わせておつくりしますよ」

お酒だけでなく好きなフルーツでも、甘口がいいとか、爽やかな感じとか、何でも好みを伝えてみるのが最初のステップ。たとえメニューがないバーだって、会話のやり取りがあれば自分の好みに近づくことができる。バーテンダーも、ヒントが欲しいのだ。

そして今、カウンターには小さなPOPメニューが置かれている。「鳳鳴(ホウメイ)」と書かれていて、これが2025年「サントリー ザ・バーテンダーアワード」で若林さんが優勝したカクテルだ。このように紹介されているお店のシグネチャー、看板になっているカクテルを頼んでみると、そのカラーがわかったりする。

N-BARのバーテンダー・若林将太さん
ウイスキーをふだん飲まないゲストが「鳳鳴」を気に入ってお代わりしてくれたことが嬉しかった、という。

若林さんがバックバーからボトルを取り出したり、メジャーカップで量ったり、氷を入れてシェイクしたり……そんな動きを眺めているだけでも愉しい時間。気になるお酒、わからないことがあれば遠慮なく聞いていい。例えば、いま目の前にある「碧Ao」と書かれたボトル。

「世界5大ウイスキーと呼ばれるアイルランド、スコットランド、アメリカ、カナダ、そして日本の原酒をブレンドしたウイスキーです。だからボトルも五角形なんですよ。フルーティかつスモーキーで飲みやすいので、ウイスキーをあまり飲まない方にもお薦めです。こちらをベースにカクテルをおつくりしますね」

説明を聞いていると、カクテルだけじゃなくその材料となるお酒にも自然と興味が湧いてくる。「碧Ao」に続いて桜リキュールの「KANADE〈奏〉桜」とレモンジュースを加えたら、シェイク。仕上げにアッサムやダージリン、ラプサンスーチョンなど6種類の茶葉と柚子皮をブレンドして炭酸を加えた自家製ソーダが注がれ、カスミソウが飾られた。

「お待たせいたしました。『鳳鳴』です」

アルコール度数控えめの飲みやすいロングカクテル「鳳鳴」1,800円
グラスに鼻を近づけると、ふわっと良い香りが漂う。アルコール度数控えめの飲みやすいロングカクテル「鳳鳴」1,800円。

1杯目を飲み終えたら、2杯目は……とカウンターに並んだお酒を眺めると、「六」と書かれたボトルが。

「こちらは日本のクラフトジンで、桜花、桜葉、煎茶、玉露、山椒、柚子と6種類の和素材を使っています。先ほどの『碧Ao』は5大ウイスキーをブレンドした五角形のボトルでしたが、『ROKU〈六〉』は6種類のボタニカルで六角形。上品でやさしい味わいのジンです」

じゃあそのジンを使って何かカクテルを、といったオーダーもOK。

「いま旬の柚子がありますので、華やかで甘いショートカクテルはいかがですか?」

クラフトジンの「ROKU〈六〉」に柚子リキュールの「KANADE〈奏〉柚子」、リンゴとアーモンドミルクの自家製シロップをシェイクした、若林さんのオリジナルカクテル。こうして会話の中からバーテンダーがいろいろな提案をしてくれるから、新しいお酒やカクテルに出会うことができる。

絹のように柔らかいテイストのオリジナルカクテル「白妙」1,300円。
絹のように柔らかいテイストのオリジナルカクテル「白妙」1,300円。

若林さんによると、最近はローアルコールや、モクテルと呼ばれるノンアルコールのカクテルもよく注文されるらしい。お酒を飲まなくても、バーの雰囲気やバーテンダーとの会話を楽しむ人が増えているようだ。

「今日はおいしいイチゴがありますので、そちらを使ったフレッシュフルーツのカクテルもお薦めです。お酒を入れても、入れなくても、どちらでも作れますよ」

これで最後の1杯、ちょっと強めのカクテルで締めるのもいいけれど、ノンアルコールで酔いを少し醒ましてから帰るのもいい。ノンアルコールをお願いすると、若林さんがブレンダーに材料を入れ始めた。イチゴ、クランベリージュース、自家製バラのシロップ、そして「まるで梅酒なノンアルコール」という名前のドリンク。

「アルコール度数は0%ですけど、本当に梅酒みたいなノンアルコールなんです。こういった商品が増えてきているので、ノンアルコールカクテルの幅が広がりましたね」

ジューシーなイチゴの風味が広がる「イチゴのノンアルコールカクテル」1,400円
ジューシーなイチゴの風味が広がる「イチゴのノンアルコールカクテル」1,400円。

あっという間の1時間半、次々に客がやって来て満席になった。愉しくて時が経つのを忘れてしまいがちだが、こんな時は長居せずに後から来た人に席を譲りたい。

お会計はチャージが600円と、カクテル3杯をあわせて5,610円。

「せっかく当店の扉を開けてくださったのなら、ここでしか飲めないカクテルを愉しんでいただきたいんです。また、新しいカクテルをご用意してお待ちしております」

扉を開けると、外まで見送ってくれる若林さん。

カクテルの大会で優勝したバーテンダーだなんて聞くと背筋が伸びてしまいそうになるけれど、気づけばリラックスしていた……という客も多いだろう。

N-BARのバーテンダー・若林将太さん
手を振ってお見送りしてくれる若林さん。「また会いたい」と思わせてくれるバーテンダーだ。

「ありがとうございました」

仕事帰りに、気分転換に、誰かと話したくなって、バーへ行く。すっかり肩の力が抜けて、明日も頑張ろうという活力になる。

ひとりでも、初心者でも、いいバー、いいバーテンダーならこんなふうに楽しめる。バーはただ、お酒を飲むだけの場所じゃない。人に会いに行く場所なのだ。

だから、今日はバーの扉を開けてみよう。だって、こんなに楽しい世界が待っているのだから。

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