京都の「時を超える余白」。図書室・喫茶〈鈍考〉

素晴らしい空間やサービスだって、提供する側にも受ける側にも気持ちにゆとりがないと楽しめない。私たちにほかでは得難い体験を与えてくれる名店の主たちはなおのことだろう。街の喧騒を忘れる住宅地にある図書館〈鈍考〉主宰に聞いた、店のあり方と、“京都の余白”。

photo: Yoshiko Watanabe / text: Mako Yamato

選書家が作る、時間の流れを変える図書室と喫茶

叡山電鉄の三宅八幡駅から、のどかな景色の中を歩いて10分ほど。街の喧騒を忘れる住宅地にある〈鈍考/喫茶 芳〉は、選書家・幅允孝さんによる予約制の私設図書室だ。1回限定6人の来訪者は窓の外に広がるヒノキ林の借景と約3,000冊の蔵書、そしてコーヒーと共に思い思いの90分を過ごす。

「この先も本と向き合い続けるためには、時間の流れの遅い場所が必要だと感じました。“鈍”は、テクノロジーのスピードや都市の回転数に対して、人間はもっと鈍くてもいいのではという意味を込めたもの」と幅さん。

各地で場所を探すうち、この景色に出会い即決。建築家・堀部安嗣による空間は日本伝統の建築技法を取り入れ、額縁庭園の趣を漂わせる。

「時間の流れを遅くする場を作ったはずが、90分があっという間と言われることも多い。集中することで時間は伸び縮みする。その感覚を自分でコントロールするのが大切」

そこに添えられるのは店主としてカウンターに立つ妻、ファンさんがネルドリップで深く抽出するコーヒー。あえて音楽は流さず、鳥や虫の声、ぱらぱらとページをめくる音、カチャリと響くカップの音が静けさを際立たせる。

京都〈喫茶 芳〉店内
とろりと濃厚なコーヒーはまろやか。温度変化による味わいも楽しみたい。

「空間を共有する6人の邪魔をすることなく、“鈍考”の粒子が寄り添えれば」とファンさん。ただ本を読むだけではない、心を健やかに整えてくれる場が、ここにある。

柴崎友香『百年と一日』
柴崎友香『百年と一日』は巧みなストーリーに引き込まれ、余白を感じる本として幅さんが選んでくれた一冊。

余白のある店主〈鈍考〉主宰、幅允孝さんと〈喫茶 芳〉店主、ファンさんが語る、京都の余白

借景が日常にある2人には、美食とともにある時間が癒やし

週末のみ通し営業の〈通しあげ そば鶴〉。その土曜日の15時頃、昼食の方は帰り、夜の予約の方もまだという午後のカウンターで、3兄妹(きょうだい)とだらだら話しながらアテをいただき、ちびちび燗酒を飲む時間に心の余裕をもらえ、人生の喜びを感じます。(幅)

京都〈通しあげ そば鶴〉店内
蕎麦前も充実の〈通しあげ そば鶴〉
両親が営んだ店を長男、次男、妹の3人兄妹が受け継ぎ、2023年に50周年を迎えた蕎麦店。石臼挽きの繊細な蕎麦に加え、出来たての蕎麦前も多彩。幅さんは「いつもの」と言って、さっと料理が出てくる常連。創業から継ぎ足し続ける天丼のタレをかけた名物・葱の天ぷら750円。正方形で厚く別注した油あげ焼いたん600円。燗酒1合700円〜。

休みの日に〈Le temps du goût〉のカウンター席に座って一人、本を読みながらデザートをいただく時間は私にとって最高のひととき。とりわけ今夏いただいた桃のクレープは素晴らしい味わいでした。(ファン)

京都〈Le temps du goût〉クレープ
〈Le temps du goût〉で季節の口福を
店主の山下達夫さんが手がけるイートイン限定メニューは、そのままでも十分な旬の果物に手間と味を幾重にも重ね、さらなる魅力を引き出したデザートだ。ファンさんが絶賛するクレープは、和歌山や長野から届く桃を主役にした夏限定の一皿。とはいえ、季節が進んでもクレープに合う果物があれば不定期にメニューに加わるため、次は何かと期待を込めて待ちたくなる。クレープ1,500円、紅茶600円。

京都の「時を超える余白」。ギャラリー・紫野〈kankakari〉

京都の「余白のある店、余白のある人」。清水五条〈池半 分室〉

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