世界中の川を旅した、愛すべきカヌー犬
ガク ✕ 野田知佑
カヌー界の第一人者であり“孤高のカヌーイスト”として知られる野田知佑の傍らには、いつも一頭の犬がいた。仔犬の頃からカヌーに乗るガクは激流をものともせず、13年間にわたって国内をはじめ、アラスカやカナダ、メキシコなど、野田と“二人五脚”で世界中の川を旅した。
人の気配がない川や森を駆け回るガク。グリズリーと戦い、野鳥の巣からタマゴを頂戴して食べ、ヤマアラシに噛みついて顔中トゲだらけになったこともあった。カヌーが転覆すると自力で岸まで泳ぎ、主人が戻るのを待った。
ユーモラスでたくましいその姿から“カヌー犬”と呼ばれ、多くのカヌーイストたちが愛し、憧れた。冒険のパートナーとして対等に付き合い、ともに生きた1人と1頭の物語は、ただかわいがり、保護する対象とは違う、人間と犬とのフェアな関わりを教えてくれる。

北極圏12,000kmの冒険を支えた相棒
アンナ ✕ 植村直己
1974年12月、冒険家・植村直己はグリーンランドのヤコブスハウン村で12頭のエスキモー犬を買った。グリーンランドからアラスカまでの12,000kmをたった一人、犬ぞりで走り抜ける、前人未到の計画のためだ。
冬の北極圏は一日中太陽が昇らず、気温は氷点下40℃を下回る。猛烈なブリザードに行く手を阻まれる中で、植村は走れなくなった犬たちを一頭、また一頭と置き去りにし、途中の村で新たな犬を調達した。そんな状況で唯一12,000kmを走り抜き、ともにゴールしたのがヤコブスハウンで買ったメス犬、アンナだった。
途中、犬たちが脱走し、一人荒野に取り残された植村。死を覚悟した時、アンナが犬たちを連れて戻ってきてくれた。植村はアンナを命の恩人であるとし、ともに帰国。その後アンナは北海道・旭川市の〈旭山動物園〉で穏やかな余生を送った。

死の病から人々を救った、命の犬ぞりリレー
バルト ✕ ギュンナー・カッソン
1925年の冬、アラスカ西部にある町、ノームでジフテリアが発生。死者が出る中、町には唯一の治療手段である血清が不足していた。ノームに続く道路はない。氷結した港に船は入れず、吹雪のため飛行機も飛ばない。
そこで立ち上がったのが、古くからこの地で輸送を担ってきた犬ぞり使い(マッシャー)たちだった。血清のある町、アンカレジからノームまでの距離は約1,100km。氷点下50℃、雪と氷に閉ざされた荒野を20組のドッグチームがリレー形式で走り、6日後に届けられた血清により多くの命が救われた。
最も過酷かつ長距離の最終区間を走ったのがギュンナー・カッソン率いるチーム。16頭の犬を統率したリーダー犬のシベリアンハスキー、バルトは、その偉業を称えてニューヨークのセントラル・パークに銅像が建てられ、その物語は今も語り継がれている。

「タロジロの奇跡」を生んだ南極生存犬
リキ ✕ 南極地域観測隊
1956年11月8日、南極観測船「宗谷」は日本初となる第1次南極観測隊と樺太犬を乗せて東京・晴海埠頭を出発した。1年3ヵ月後、帰国を迎えた観測隊は予期せぬトラブルにより15頭の犬たちを鎖でつないだまま南極に置き去りにせざるを得なくなる。
誰もがその生存を絶望視する中、タロとジロの兄弟犬2頭が1年間生き延び、隊員との再会を果たした。日本中を熱狂させた「タロジロの奇跡」は有名な逸話だが、実は“第3の生存犬”がいた。68年、第9次南極観測隊が1頭の樺太犬の亡骸を発見する。
第1次南極観測隊で犬の世話係を担当していた北村泰一は亡骸の様子や当時の犬たちの関係性から、それを最年長でリーダー的存在だったリキであると確信。基地に残された食べ物を探し、自身の命が尽きるまで幼いタロとジロを助けたのではないかと推察している。

小さな犬が孤独な男に与えた、冒険する勇気
アティカス ✕ トム・ライアン
アメリカ・マサチューセッツ州にある町で小さな新聞社を切り盛りするトム・ライアン。独り身の寂しさを埋める相棒として家族に迎えたのが、ミニチュア・シュナウザーのアティカスだった。
ある日、トムとアティカスは兄の誘いで登山に初挑戦。高所恐怖症のトムだったが、雄大な景色に魅せられ、山登りにハマってしまう。小さな体のアティカスは、どんな山でもトムを先導するように歩いた。その後、1人と1頭は5年間で標高1,200m以上の山を450峰登り、147峰の冬山にも登頂した。
暴風の中、険しい雪山を登るアティカスの勇敢な姿は話題となり、アティカスが失明の危機に陥った際には、多くの人から寄付が寄せられた。アティカスと冒険を積み重ねたトムは次第に多くの人々との深いつながりを得て、その人生は徐々に豊かなものへと変わっていったという。

人間と野生の世界を行き来した“山犬”
アラシ ✕ 今野保
戦前の北海道、原始の自然が残る集落に暮らす少年、今野保は一頭の野犬と出会う。吹雪の夜に迷い込んできた仔犬、アラシはたくましく成長し、その姿はかつて北海道に生きたエゾオオカミを思わせた。
まだ野生の山犬が存在していた時代。アラシは人間や家畜を襲う山犬を撃退し、ヒグマがうろつく山を登校する今野を守るように一緒に歩き、手つかずの自然の中をともに冒険した。山と家を自由に行き来するアラシを縛るものは何もない。人に対する忠誠心を持ちつつも、アラシは次第に山犬の群れの遠吠えに引き寄せられ、野性の血を目覚めさせていく。
山犬との闘争に勝ち、ボス犬に上り詰めたアラシはついに人と別れ、山犬として生きていく道を選ぶ。今野とアラシの実際の物語は、犬もまた自然の一部であることを教え、人と犬との幸せな関係とは何かを問いかける。
