“今”に全身で翻弄され変容することこそ冒険
僕の思う冒険は、世界に対して徹底的に受動的になり、外界の刺激を一身に受けて、自分が変化していくものです。そのためには“今”に身を開かなくてはなりません。「今しかないじゃん、時間って」は映画『WE ARE LITTLE ZOMBIES』のセリフ。
主人公は孤児になった4人の13歳ですが、彼らは親が死んでも泣けず、自分たちを感情のないゾンビのような存在だと感じています。そんな彼らが「感情を手に入れるための冒険」に出る。過去にとらわれず、未来に期待せず、今にフォーカスする態度はまさに冒険的です。

カヴァフィスは“今”を書き続けたギリシャ詩人。その詩は、香りや視線、肌の触れ合い、空気の湿り気を克明に描きます。過去を言葉の力で今の感覚として蘇らせ、鮮烈な出来事とともに生き続ける。彼がエジプトのアレクサンドリアからほとんど出なかったのは、詩によって冒険ができたからかもしれません。

著者は19世紀から20世紀にかけて、アレクサンドリアで役人として働いたギリシャ詩人。全154詩に、感覚と官能が横溢する。著:コンスタンティノス・カヴァフィス/訳:池澤夏樹/岩波文庫/1,364円。