出演・制作している番組多数の若林恵さん、音声コンテンツの魅力ってなんですか?
ソクラテスならどう使う?ポッドキャストの可能性。
「とにかく、バズらない」。いくつものポッドキャストを制作している若林恵さんにその所感を聞いたときの第一声だ。しかし、それこそがよさだと語る。
「SNSでバズるのって文字か動画の一部を勝手にトリミングしたものが多いですよね。パッケージが解体されている。一方、通して聴いてこそ意味のある音声メディアは切り取りが困難。意図通り聴いてもらえる可能性が高く、パッケージ化されたコンテンツとしての提供に向いていると言えます。
僕にとってそれは、雑誌の特集を作るのに近い。使いやすい手札が一つ増えたような感覚です」バズらないのに盛り上がっている理由を聞くとこんな仮説を披露してくれた。
「僕もまだ明確な理由をつかめてなくて、教えてほしいぐらい(笑)。いろいろ調べて、興味深かったのは“テレビ・新聞・ラジオそれぞれでフェイク交じりのニュースを流したところ、一番ウソを見抜けたのがラジオリスナーだった”というイギリスの研究グループによる調査でした。
目くらましが利く映像などと比べ、音声は状況や声色といった情報をフィルターとし、信頼性を担保している可能性があります。実際、米国の若者が一番消費している音声コンテンツはニュース。フェイク交じりの膨大な情報が氾濫する現在、人は“事象の文脈を正確に理解したい”という欲望を抱えながら生きています。
ニュースに接して出力された自身の感情に対し、音声メディアを通じて自分にとって真実性の高いエビデンスやロジックが与えられる。その信頼感が一種の癒やしとして機能しているのかもしれない。日本の若者にも、同様のニーズはあるように思います」
そもそも人類は音声による対話で理解を深めてきたとも指摘する。
「最近読んだ本で知ったんですけど、ソクラテスって“声じゃないと伝わらない”って考えの人だったそうなんです。同じ対話を経験することによる哲学的深まりこそが“理解”だと信じていた。でも、弟子であるプラトンが師匠の死後にその考えを文字にしちゃった。当時のギリシャって文字文化の勃興期で、要は“流行ってた”わけです。
今で言うと、noteに載せたらバズったみたいな感じ(笑)。しかも、亡くなったあとに。何が言いたいかというと、存命中のソクラテスが文字にするのを許してたかはわからないけど、対話ごと公開できるポッドキャストならOKしたかもしれないなとも思うんですよね。今はそういう時代の端境期にある気がして、面白いです」
黒鳥社が手がけるPodcast
ジャーナリストの佐久間裕美子さんと若林さんが時事を絡めて横断的に語り合う番組。2020年夏には、過去エピソードをテーマ別に振り分け『ジェンダー編』『メディア編』『アメリカ編』(すべて黒鳥社)として書籍化もされた。
『こんにちは未来』の佐久間さんとセカンドハンドショップ〈DEPT〉のオーナーであるeriさん。公私ともに仲良しの2人が、身近な話題から環境問題や政治など、“小さい世界と大きな世界とのつながり”をテーマにトークを繰り広げる。
文具や家具を手がけるコクヨのワークスタイル研究所と黒鳥社がコラボ。文化人類学者・松村圭一郎さんがホストを務める『働くことの人類学』と、若林さんとバイヤー、キュレーターの山田遊さんの『新・雑貨論』の2番組で構成。
黒鳥社の音声コンテンツレーベルとして、2020年3月に始動。気になる話題を気になるあの人と語らう対談シリーズの『blkswn dialogue』や若林さん自らが気になった書籍の一部を朗読する『音読ブラックスワン』を配信している。
担当記者自ら語る取材の裏側。朝日新聞の意外な狙いとは。
伝える方法は「筆」だけじゃない。
活字が主戦場である記者のトークが、こんなに面白いなんて!そう舌を巻いてしまうのが朝日新聞のポッドキャストだ。さすがの情報量なのに、ながら聴きでもすっと耳に入ってくる。
膨大な取材と情報整理の下地に加え、普段は紙面の関係で情報をカットしているため、みなさん饒舌なんだとか。毎日配信を続ける本番組の目的は、「フェイクニュース撲滅」と、担当する神田大介さんは熱い。「カタい文章ではスマホで戦えない。音声で聴き手との距離を縮めて正しい情報を伝えたい」。
そんな思いを乗せたざっくばらんな現場の声に、ニュースを見る目が変わるはず。
#25『鳴らない電話、記事に8カ月 調査報道の舞台裏話します』:調査報道の地道な手法が明かされた回。「ニュースになるまで」も知れるのは、記者が自ら語る音声ならでは!
#63 『ギガ足りず、子どもが密集「パケット配布」始めた政府』:インドネシア支局の記者のリアルな肌感覚や報道のこぼれ話までたっぷり語られ、海外ニュースへの興味が俄然増す。
#84 『久保建英「重圧まったくない」大器が挑む代表初ゴール』:貴重なインタビューも、音声ならたっぷり放送できる。スポーツ部記者ならではの解説も加わった、スペシャル回。
#121 『あれは漫才?朝日新聞お笑い担当記者が見たM−1』:大阪本社の記者が語る、M-1の解説。思いがけない熱量に感服すること間違いなし!
聴いてる間にスープができちゃう有賀薫さんの音のレシピ。
おいしい音の秘密は録音にあり。
聴けばスープが作れる便利な番組。しかしその魅力は実用性だけじゃない。スープ作りの工程と知恵が詰まったおしゃべりに加え、その料理音がまた至高。
トントンという包丁の音、パリパリとバゲットをちぎる音。秘訣はマイクを限界まで近づけて収録すること。「料理の音は、波の音のような癒やし効果があるでしょう」と有賀薫さんは嬉しそうだ。
「スープは素材に手を加えすぎないから楽に食べられる。声がそのまま届くポッドキャストに似て、情報過多の時代にちょうどいいのかも」。一息つきたい時はこの番組で有賀さんのキッチンへ。聴くと、お腹も空いてくる。
●「いつもと違うね」と言わせるお味噌汁
● オクラ、きゅうり、みょうがの冷や汁
● パン入りのサーモンクリームスープ
● 鶏もも肉と長ねぎ、しめじの味噌スープ
● トマ玉塩スープのかけごはん
あの大人気番組が音声に!“身近な境界線”を越える国内版。
右翼の男性とファミレスでお茶をする。
ギャング、KKK(クー・クラックス・クラン)、ゴミ山で暮らす若者らに密着し、世界各地の“ヤバい飯”から今を知るグルメ番組『ハイパー ハードボイルド グルメリポート』(テレビ東京)。その新シリーズである国内版が、3月からポッドキャストで配信される。
初回は「右翼&左翼」、第2弾は「セックスワーカー」を予定。音声になっても“食事風景を取材する”というスタイルは変わらず、右翼活動をする男性ともファミレスでドリンクバーに興じている。「右翼にしろセックスワーカーにしろ、メディアは“ヤバいヤツがいたぞ!”と面白がるか、悪い側面を切り取るかのどちらか。
視聴率は稼げるけどテレビの人間として“それは違う”と思う」。コロナ禍で取材先は国内へ。日本には海外のようなスラム街はないが、ディレクターの上出遼平さんは渋谷区の路上にいた女性が突然殺害された事件のように、見えない境界線があると常々感じていたという。
「街にいるけど近寄りがたい人っていますよね。でも、声をかけたら意外と話せるもの。国内版ではそんな近くて遠い存在の“遠さ”を取り払っていきたい」。音声化により、取材相手のプライバシーを守りつつ、真に迫る声を届けることに成功。続報はツイッターで。