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ペンギンを見るなら…長崎ペンギン水族館

今、水族館が面白い!世界有数の水族館大国である日本には、世界初の発見や環境保全の取り組みで国内外をリードする大型から、街中でふらりと通える洗練された都市型、特定の種を集め知的好奇心を刺激する特化型まで、個性の強い水族館があふれている。そして、その中心はもちろん、かわいくて、不思議で、驚異的で、生命の神秘が詰まった生き物たち。推しの生き物が見つかったら、今すぐ水族館へ!

本記事も掲載されている、BRUTUS「通いたくなる水族館。」は、3月1日発売です。

photo: Yuichiro Hirakawa / text: Emi Fukushima

190羽の大ペンギン団が圧巻!世界に誇る飼育法の成果がここに

ちょこまかと動き回る好奇心旺盛なフンボルトペンギンに、首元の黄色い羽毛が美しいキングペンギン、水中を目にも留まらぬ速さで泳ぐジェンツーペンギン……。今地球上で確認されている18種類のペンギンのうち、半分の9種類を一挙に見ることができるのが〈長崎ペンギン水族館〉。その名の通りペンギン飼育に特化したこの館には、水深4m、水量200トンの大プールを持つ〈亜南極ペンギン室〉と、屋外の〈温帯ペンギンゾーン〉の2つの展示エリアがあり、総勢約190羽が暮らす。

「お気に入りの場所から一歩も動かない個体から、プールに浸かってフリッパーと呼ばれる翼で全身を洗うキレイ好きな個体まで。キャラクターは実にさまざまです」と飼育員の山口あゆ美さんは話す。

豊富な飼育実績と技術は、“長崎方式”として世界へ

そもそもこの水族館とペンギンの結びつきは、1959年に開館した前身の長崎水族館時代に遡る。開館当初、長崎港を基地としていた捕鯨船団が南極海から4羽のヒゲペンギンを連れ帰ったことを機にたびたび新たな種が運び込まれた。ノウハウはなかったが、独自に考案した冬場にペンギンを屋外散歩させる等の手法で健康増進を図り繁殖を刺激。ペンギン飼育の世界最長記録を打ち立てたキングペンギンの「ぎん吉」らスターも誕生し、その飼育実績と技術は“長崎方式”として国際的な文献で取り上げられた。一時閉館を経て、2001年に現在の形に。知見を受け継ぎ、現在飼育されている個体の約7割が、ここで繁殖した“長崎生まれ、長崎育ち”だ。

「大切にしているのは日光浴と運動です。例えば天井の一部をガラス張りにして屋内展示室にも太陽光を取り入れたり、給餌の際に飼育員が縦横無尽に歩くことで歩行を促したり。水中給餌装置を積極的に使って泳ぎを促すことも。日々さまざまな工夫をしています」



また体調管理のために週に1日、休餌日を設けているのもここならでは。毎日エサがとれるわけではない野生環境にならい導入した仕組みだが、「“断食明け”にはペンギンからの“エサはまだか”という圧を感じる(笑)」とのこと。

この館の展示の見どころの一つがフンボルトペンギン。世界に約1万2000羽しかいない稀少種だが、ここは66羽の大集団。エサを求めて大勢で右往左往するさまも圧巻だが、個体間のユニークなやりとりを見られるのも醍醐味だ。

「ペンギンは愛情深いので、好き同士はペアになって寄り添います。異性はもちろんのこと、同性同士のペアや三角関係も(笑)。羽繕いをするなどの親愛を示すジェスチャーが見られます」

一方国内でも珍しいコガタペンギンを飼育しているのも特筆すべき点。小さい体で懸命に泳ぐ姿のほか、「飼育員がいつもと違う色の服を着たり、帽子をかぶったりするだけで巣に隠れてしまう」という臆病な性格がまた愛らしく、遠方から訪れるファンも多い。

9種類のペンギンたちを眺めていると、外見や性格の違いから生き物としての多様性にも気づかされる。世界的にも珍しいペンギンだらけの水族館で、ぜひ思い思いの“推し”を見つけてほしい。