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ベトナム・ダナンの新しき楽園。新旧の時代が交差するアジアンリゾート最先端の地

求めているのは、ひととき日常を忘れるための癒しではありません。その地にしかない音や光を体感し、自我を揺さぶる圧倒的な景色を目にし、人々の美しい暮らしや祈りに触れること。知らなかった幸福な世界に出会う経験によって、旅から帰った時に、きっと以前とは違う価値観を得ている自分に気づくはずです。だから、いま、人生を変える楽園へ。

Photo: MEGUMI (DOUBLE ONE management) / Text: Mayumi Yawataya

未知なる楽園は、リゾートが林立する東南アジアにまだあるのか。答えはイエス。ベトナム中部のダナン周辺は、今、ひときわ注目を集める新しいデスティネーションだ。

ダナンは、ホーチミン、ハノイに続く、ベトナム第3の都市。地形に恵まれた天然の良港を備えていたことから、古来、東西貿易の中継地として栄えてきた。が、ハイエンドなリゾート地として台頭してきたのはこの5年ほどである。

白砂がどこまでも延びゆく広大なビーチ、しかもビーチに面した南シナ海は、穏やかな遠浅の海。国際空港というインフラだってある。そうした条件が、人間の手で楽園を作り、育んでいく地として最適だと考えられたのだ。“公害の少ない産業”を興し、地域の雇用を創出するという政治的な希望があったとも聞いた。

無粋な話はほどほどにして、ダナンの新しき楽園を体験してみよう。無数のバイクが競い合うように走る市街地の喧騒をあとに、東側にあるノンヌォック地区に移動。あまたのホテルから選んだのは、オープンして2年という〈ナマン・リトリート〉だ。

“リトリート”という名が示す通り、滞在型のスパトリートメントのメニューが充実しているアコモデーションだが、2016年の国際建築賞を受賞するなど、施設のデザインコンセプト、竹という素材を大々的に使った共有スペースの潔い建築スタイルでも、評価を集めている。

「竹は、ベトナムを象徴する植物なんです。例えば各村では外部から地域を守るために竹製のフェンスを作っていました。ですから竹の中に入るデザインは、“ホーム”に帰ってきた居心地のよさを感じてもらうべくイメージされています」

マーケティング担当のミス・ハナは、ストレートの長い髪が美しいダナンっ子だった。伝統的に農業を営んできたベトナムを象徴するモチーフとして、稲や米のオブジェが装飾に使われていることなど、にこやかに教えてくれた。

Banyan Tree Lang Co(バンヤンツリー・ランコー)

もともとの地形と手つかずの自然が生かされたランドスケープデザインが、隠れ家的な雰囲気を醸し出している。モダンながら、フエやホイアンなどの伝統文化にインスパイアされた設えも心地いい。ラグーン、海岸に面したプール、丘の上からのシービューと、ヴィラのタイプによって眺めが異なる。

ヒルサイド・プール・ヴィラには1~3ベッドルームの3タイプがある。隣接の姉妹ホテル〈アンサナ・ランコー〉の施設とアクティビティも利用が可能。ゴルフ場が併設されたラグーナ・ランコーと呼ばれるリゾート地区内にある。

Naman Retreat(ナマン・リトリート)

ダナンの高級リゾートエリアであるノンヌォック地区では2015年オープンと比較的ニューフェイスだが、すでに数々の建築賞を獲得。特に日本で学んだ経験のある竹建築の専門家ボ・チョン・ンギア氏が手がけたレストラン施設は、天井が高くインパクト大。

スパのトリートメントでの「デトックス」を目的とした滞在(3泊4日または4泊5日)、近隣のグレッグ・ノーマン設計の〈ダナンゴルフクラブ〉や〈モンゴメリーリンクス〉といった東南アジア屈指のゴルフコースでのプレーを組み込んだバカンスなど、旅の選択肢は豊富。

Vinpearl Da Nang Resort & Villas(ビンパール・ダナン・リゾート・アンド・ヴィラ)

ベトナム ダナン ハイヴァン峠
ダナンから車で北上してランコーに向かう途中、ハイヴァン峠に差し掛かると、海霧だろうか、周辺に白い霧が立ち込めた。峠を越えると視界は開け、麓にカラフルな家々が並ぶ漁村が。自然そのままの岸辺の暮らしの光景は、南シナ海に面し、多くの川が国土を流れるベトナムの原風景。旅人にもどこか懐かしい。

人と出会い、土地を知るほどに
旅の感動は深くなる

洗練されつつ、温かみがある。それは南国のリゾートに共通することではあるが、ベトナム中部特有の何かが、そこに影響しているのではないか。土地へのそんな好奇心を内側に芽生えさせ、翌日は古都ホイアンを訪れた。

実はダナン近郊には、ベトナムにある8つのユネスコ世界遺産のうち、3つが集まっている。ベトナム最後の王朝、阮朝の首都だったフエの王宮と、2世紀から17世紀の間に栄えたチャンパ王国の聖地、ミーソン遺跡、そして鎖国政策以前に1000人以上が住む日本人街があったというホイアンだ。

当時の商人たちは朱印船に乗って、ベトナムやその先のインドにも渡っていたらしい。古民家を活用した〈貿易陶磁博物館〉には、ちょんまげに裃姿の侍や町人風の男、着物姿の遊女などが描かれた、17世紀の筆によるホイアンの街の絵が掛かっていた。

辛子色の壁に「陰陽瓦」と呼ばれる漆喰を使った屋根、室内には暗く光る飴色の木の梁や柱が頑丈に組まれている。日本人が去ったあと、華人たちが造り上げ、今なお保存、修復されているホイアン旧市街の家々の特徴だ。通りを歩いていると、フランス語やロシア語、日本語などのガイドの言葉が飛び交う。

古民家カフェの窓辺では、金髪の若者がコーヒーを飲んでいる。レンタサイクルに乗っている欧米人の家族連れは、周辺の田園地帯から帰ってきたような様子。旧市街を少し離れれば、自然のままの水辺の暮らしや水田が広がっている。ベトナムの原風景だ。夕暮れ時のランタンの明かりに照らされた幻想美とともに、そんな光景もホイアンの魅力である。

「ホーチミンはベトナム全土から人が集まるダイナミックな都市。首都のハノイは、人々はエレガントですが、やはり忙しい大都市。それに比べてダナンは、近代的な都市ではあっても、リラックスした雰囲気の街だと思います」
〈バンヤンツリー・ランコー〉で出会ったミス・ニーだ。

彼女もダナン出身で、ホーチミンの大学を卒業したあと、地元に戻り、リゾートに就職したという。青銅の鐘や木彫りのスクリーンといったベトナムの工芸品が随所に配されたリゾートの設えを、広い敷地を歩きながら案内してくれた。

その後、バンヤンツリーのスペシャリテであるスパのトリートメントを受ける。マッサージの心地よさも相まったのだろうか。今しがた目にした手工芸のアートを頭の中で反芻していると、いにしえの王宮はどうだったのかと、時空を超えて想像が広がり始めた。

ランコーは、波の音がよく響く土地だ。ヴィラからは東側の海を180度見下ろせる。明日は久しぶりに朝日を見よう。街を歩き、人を知ることで、その地の情景はいっそう美しく、訴えかけてくる。それこそが楽園。旅の力なのだ。