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マレーシア、ボルネオ島。ちょっとだけ冒険的な旅

意外と日本からも近い?マレーシア、ボルネオ島の魅力に迫る。

Photo: Tadashi Okochi / Text: BRUTUS / Cooperation: Tourism Malaysia, Malaysia Airlines, Borneo Trails

“生物多様性”を象徴する
豊饒の森へ。

世界で3番目に大きい島、ボルネオ。現在、マレーシア、インドネシア、ブルネイという3国で分割統治されるこの島は、かつて広大な密林に覆われ、世界でも最も豊かで多様な生態系を備えた、動植物の宝庫だった。

しかし20世紀には天然資源の開発のため森は切り開かれ、その姿を劇的に変える。現在、グーグルマップで島を見れば、その表面は一見すると緑に覆われている。

ただしクローズアップすれば、それは整然と並ぶアブラヤシの単一な人工林=プランテーションだとわかる。世界屈指の量を産するこの島のパーム油の主な行き先は、ほかでもない日本だ。

一方、そうした大規模な開発の中で、失われゆく熱帯の森を保全し、固有の生態系を貴重な資産として捉え直す動きも近年、起こりつつある。各地に自然保護区が設けられ、開発を免れた貴重な森が、今、旅行者を受け入れ始めている。

セピロック自然保護区の端に位置する、オランウータン保護センター。施設奥には自然保護林が広がる。1日2度の給餌にタイミングを合わせて、彼らは森の奥からやってくる。

開発と自然、その狭間に立つ象徴が、オランウータンだ。現地の言葉で“森の人”を意味する彼らは、ここボルネオとスマトラの一部のみに生息。
ゴリラやチンパンジーと違って単独行動を主とし、アジア唯一の類人猿としてこの森を代表する動物だったが、生息可能な森林の縮小により個体数は激減。

混乱のなか、密猟や開発が原因で母親とはぐれ、あるいは死別した孤児を保護し、やがて森に返す日を目指して訓練を行う施設が、島内にいくつか設立されている。

その代表格が島北部、セピロック自然保護区の保護センターで、オランウータンを間近に観察できる貴重な場所となっている。施設の背後にはジャングルが広がり、保護を経て森に放たれた半野生の個体が姿を見せる。
木々を渡って頭上、森の奥から現れるその姿は、まさに彼らが樹上生活者であり、森を前提に生きてきたことを見る人々に教える。

さらに周辺に足を延ばせば、ここから南に位置するキナバタンガン川流域も、野生動物の格好の観察エリア。森の多くはプランテーションと化したが、一部では伐採をやめ、小型ボートでリバークルーズが行われている。まだ訪れる人は決して多くはないが、本来のボルネオの森に迫るチャンスだ。

かつて存在した森は、その多くが消え、究極のモノカルチャーとしてヤシの人工林に置き換わった。しかし一部では、多様性の典型例とも言うべき独特の生態系がなお残っている。
そうした極端な対比を見て、実感し、森の持つ意味や未来を考える。そんな得難い時間と体験がこの島には待っている。

失われる寸前で残された森と、
その動物たち。

オランウータン保護センターのあるセピロックから車で南へ2〜3時間。低地を流れるキナバタンガン川は、その流域の一部にかろうじて密林が残り、いわば最後の聖域として数多くの動植物が生息する。

ここに昔から住む人々は、“川の民”と呼ばれ、密林に閉ざされた陸ではなく川を道とし、川に生きてきた人々だ。周辺にはこの数年で旅行者向けロッジが増え始め、注目のエリアとなっている。

そんな宿の一つに滞在し、朝夕のボートクルーズやトレッキングに出かければ、数々の熱帯植物、テングザルをはじめとするサル類、大トカゲやカエルなどの爬虫類や両生類が次々と眼前に現れる。

頭上にはサイチョウなどの鳥類も多く、時折チョウなど昆虫類の姿も。運がよければ、野生のオランウータンやボルネオゾウ、巨大ワニの姿を目にする機会もあるだろう。

川、水辺、陸、そして樹上と、様々な動植物が三次元的で複雑な生態系を構成するその様子は、まさに生物多様性という言葉の一端を実感させてくれるはずだ。

意外に日本からも近い?
赤道直下、ボルネオ島の魅力。

この島は大きく北部のマレーシア領、南部のインドネシア領に分かれる。今回紹介した一帯はマレーシアに属するサバ州となる。

州都コタキナバルへは羽田から直行便が便利だ。近郊には富士山より高い高峰、キナバル山が聳える。その一帯は世界遺産に指定され、トレッキングも人気。周辺の島々にはダイバーの人気スポットが点在する。
セピロックやダナンバレーなどの自然保護区は、コタキナバルから国内線で最寄りの街へアクセス。

交通/コタキナバルは羽田から約6時間。国内線に乗り換えてサンダカンへ約1時間。車で約30分でセピロックへ。キナバタンガン川流域は、宿泊ロッジによるサンダカン市街からのツアー参加が基本。

食事/マレー料理はインドネシアなど周辺の影響も濃い。中華料理もポピュラー。

季節/1年を通して真夏の気候が続く。降雨量も多く、暑さ対策は万全に。

見どころ/コタキナバルは夜市や屋台街。首都のある半島とはまた違う街並み。

その他/防水靴や雨具、防虫対策が必須。双眼鏡もぜひ持参しよう。1RM=約¥28。

注目の新空港もオープン。
コタキナバルは羽田から。

2010年秋、マレーシア航空は羽田からコタキナバルへの往復直行便を就航させた。
羽田発は火曜・木曜・土曜の週3便で深夜1時20分発、朝6時20分着。時差-1時間で所要は約6時間。戻りは月曜・水曜・金曜の16時35分発、同23時着。所要は約5時間半。

関西国際空港からも直行便があり、火曜・金曜の0時25分発、14時10分着。羽田発は深夜便なので、例えば金曜夜まで仕事をしてその深夜に立ち、土曜から火曜まで4泊、水曜の便で深夜に戻る、といったプランがお薦め。

コタキナバル到着は早朝でサンダカンなど国内線接続も楽。また、コタキナバルは2008年夏に新空港が完成し、機能的なターミナルビルもオープン。物理的にも心理的にもボルネオはぐっと近くなった。