Wear

Wear

着る

大人が穿くいいパンツってなんだ?〈NEAT〉西野大士と巡る、センスのいいパンツが揃う3軒

一般的に、上着には金もリサーチの手間もかけるけど、ことパンツになるとサブ扱いになる傾向がある。でも、実はパンツこそ、スタイルのある大人には重要だ。パンツブランドを手がける西野大士さんが、3軒の店を巡り、いいパンツのあり方に迫った。

photo: Kazuharu Igarashi, Hiromichi Uchida / text&edit: Shigeo Kanno

パンツを主役に抜擢したいんです

僕は、ブランドを始める前から、パンツの地位をもっと上げたいなと思っていたんです。ジャケットやアウターを買う時は、時間をかけて選ぶし、お財布の紐も緩みますが、パンツとなるとどうも二番手扱いになりますよね。そんな理由もあって、パンツ専業のブランド〈ニート〉を立ち上げたんです。

僕の理想的なスタイルは、仕立てが良くて品が良いパンツが主役。パンツさえしっかりしたものを穿いておけば、トップスがTシャツだろうが、足元がサンダルだろうが、結局はお洒落に気を使った人に見えると思うんです。だから、そのイメージを〈ニート〉のブランドコンセプトにしました。既製服は、サイズ展開も決まっているし、生地のバリエーションも少ない。

〈ニート〉は、その悩みを解消するために、パターンオーダーをメインにしたんです。ほかでは見ないようなヴィンテージの生地を使って作ることも可能です。ブランドを始めて8年が経ちますが、パンツ専業のメリットとデメリットがわかるようになりましたし、男性の好みの傾向も捉えられるようになりました。

でも、まだまだ、パンツについて知りたいことが多くて日々、リサーチ中です。今回伺った3軒は、僕自身も勉強になりましたし、いいパンツを選ぶためのガイドライン的なものも再確認できました。いいパンツって大人にとって大事なものだと思うんです。

1軒目:GODARD HABERDASHERY

センスのいい、大人のパンツが揃う店

西野大士

まずは、笹子さんの経歴を教えてもらえますか?

笹子博貴

英仏遊学から帰国後、販売とバイヤーを経て、2018年から店を始めました。

西野

笹子さんの着こなし、興味深いですね。すらっとしたクラシックなパンツに〈バレンシアガ〉のスニーカーという。

笹子

ドレス出身ではないので、より自由な合わせ方を楽しんでいます。

西野

店の規模に対してパンツのセレクションが多いですよね?

笹子

大きく区分するとイタリアの〈ロータ〉の別注品、〈サルトリア チッチオ〉の既製品、国産オリジナルの3種類です。オリジナルは常時オーダー可能で、フレアやバギーシルエットにも対応しています。

西野

僕は、パンツこそ、手を抜きたくなくて、ドレスとカジュアルの中間のイメージで〈ニート〉を始めたんです。笹子さんは、パンツの位置づけってどう考えていますか?

笹子

基本的には、〈ニート〉と同じですよ。一般的な感覚だと、パンツを後回しにしてしまうことは事実で、そもそも店の買い付け比率も低いと思います。うちはサルトリアルなものを着崩すことを前提としているのでややハードルが高いのですが、それでもきれいなパンツを穿いていると、汚さないようにしたり、不自然な場所で座らないようにしたりしますから、自分を律する意識も高まります。だから、自分の店では、パンツに力を入れました。

西野

おっしゃる通りですね。

笹子

服以外でもそうですが、こだわりを持つと、最終的にはオーダーに行き着く。いいパンツという点においては、どんな形であれ、“尻と膝の位置”が大事なんですよね。

西野

わかります。実は、尻と膝の関係性によって、シルエットに大きな影響が出るんですよね。いやー、パンツの大事さに理解のある笹子さんに出会えてよかったです!

渋谷〈GODARD HABERDASHERY〉店内
こちらもオリジナルで製作した、カラバリ豊富なロングホーズソックス。

2軒目:FUMIYA HIRANO BESPOKE

ビスポークテーラーが手がける既製服パンツ

西野大士

本来はビスポークテーラーの平野さんが、なぜ、パンツだけの既製服〈フミヤ ヒラノ ザ トラウザーズ〉を始めたんですか?

平野史也

僕は、英国のサヴィル・ロウにある〈ヘンリープール〉でカッターとして働き、2015年にロンドンで独立して、2020年から東京でアトリエを構えています。テーラーも含め、本格的な英国服の魅力を日本の方に実感してもらいたいというのが、服作りの根底にあるんです。その延長線上にあるのが既製服のパンツですね。

西野

本場仕込みのテーラーですもんね。今日着ているスーツのパンツのシルエットもすごく綺麗ですね。

西麻布〈FUMIYA HIRANO BESPOKE〉店内
美しさが際立つ、リージェントと名づけられたモデル。53,900円。

平野

自分でもデザイナーズも含めていろいろな既製服のパンツを試すんですが、やっぱりしっくりくる一本になかなか辿り着かないんですよね。僕の普段着は、上はラフで足元は革靴、だからこそ、パンツはシャキッとしたいんです。要はパンツがしっかりしていれば小綺麗に見えると思うんです。

西野

〈ニート〉のブランドコンセプトと同じですね(笑)。

平野

もう一つは、先ほど話したように、日本の男性に英国の正統派なパンツを穿いてもらいたいと思うから。英国でテーラーを学んだ僕が、英国の型紙や生地や付属品を使って作る。日本にはいわゆる英国的な服がたくさんありますが、その中でも本物の英国パンツを既製服として追求してみました。

西野

なるほど。ハイバックとサイドアジャスターのディテールが特徴的ですね。

平野

生地も本来であればフルオーダーに使用するものを使っていたりしますので、価格を考えても決して高くはないと思います。

西野

僕もこれは高くないと思います。パンツって値段のつけ方がとても難しい。ジャケットはある程度高くても買ってもらえますが、パンツは安く見られがち。用尺も作業工程も、実はジャケットとあまり変わらないのに。

平野

そうですね。そういう意味では、まずは既製服のパンツを試していただいて、いつか本格的なフルオーダーの世界にトライしてもらえたらうれしいです。

3軒目:OSAKU HAYATO

納期は1年後。パンツ職人が作る究極の一本

神奈川〈OSAKU HAYATO〉アトリエ内
途中過程の生地や道具で溢れる尾作さん(左)のアトリエにて。

西野大士

あのー、尾作さんのパンツは1年待ちって本当ですか?

尾作隼人

はい。採寸から本縫いまですべての工程を僕一人でやっているので、どうしても時間がかかります。決してのんびり作業をしているわけではありません……。

西野

それは驚きますね。予約の取れないレストランみたい(笑)。尾作さんは、銀座のテーラーで学んだんですよね?

尾作

それが、1年ちょっとで契約が切れてしまい、その店のアウトワーカーとして学びながら仕事をしていました。先輩などからも仕事をいただくようになり、一人で必死に取り組みました。

西野

大変でしたね。なぜパンツ職人を選んだのですか?

尾作

テーラー業界では、最初に学ぶアイテムがパンツなので、必然的にパンツからスタートしました。正直に言うと、ジャケットを上手に縫う職人さんに出会って、彼には絶対に敵わないなとも思っていました。でも、パンツ作りには自信があって、勝負ができると思ったんですね。

西野

偶然とはいえ解雇されたことが、パンツ職人の出発点ですね。

尾作

そうなんです。パンツは、ジャケットと違って芯地を使ったりしない分、型紙勝負です。例えば、太ももは前の筋肉が大きくて、逆に膝下はふくらはぎの方が膨らんでいます。だから、横から見ると緩やかなS字カーブになるんですね。それを型紙、アイロンワーク、縫製の技術で再現することで、綺麗なシルエットが完成します。1本15万円からですが、僕のお客さんは理解してくれているので感謝しています。

西野

いや、すべてを一人で作っていますから、高くはないと思います。しかも、ナポリの職人にパンタロナイオ(パンツ職人)と呼ばれているんですもんね。それだけ認められている証拠ですよ。今度ぜひ僕もオーダーしてみたいですね。