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祖父母の暮らしと家族の記憶を引き継いだ、もう一つの場所。建築家・小野寺匠吾、国際薬膳師・有田千幸

どうしても失いたくない家だった。それは目に見えるものとしての、あるいは不動産としての「家」ではなく、自分たちの拠(よ)りどころとなる場所の在り方。「家族の記憶や空気感」と国際薬膳師の有田千幸さんは言う。

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photo: Tetsuya Ito / text: Tami Okano

この家にしかないものを残し、「新しい使われ方」を探る

平屋の母屋を中心に、東側には2階建ての納屋と小さな飼料小屋、西側には蔵もあり、改修は何期かに分けて計画。石垣の手前には先祖代々の田んぼも8反ある。

広島市内から車で約1時間。山間を縫うように進むと、田んぼの向こうに、赤い石州瓦をのせた民家が現れる。この家は、有田さんの父方の祖父母の家だった。幼い頃から何度も訪れた思い入れのある家で、祖父母が亡くなり、住人不在となったのが2018年のこと。

親族の今の生活拠点は皆遠く、有田さん家族も普段は東京に住んでいる。解体も考えたというが、何とかその「空気感」を残したいと、夫で建築家の小野寺匠吾さんが改修設計を担うことに。

敷地にはいくつかの建物が点在しているが、まず取り組んだ母屋は、築120年。「伝統的な農家形式がベースですが、長い年月の間に増改築が繰り返されてきたため、不要な梁(はり)があったり、構造も補強が必要だったり。既存のものをできるだけ生かしつつ、ここを“新しい使われ方”ができる場所にするため、全体を捉え直す必要がありました」と小野寺さん。

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