この家にしかないものを残し、「新しい使われ方」を探る

広島市内から車で約1時間。山間を縫うように進むと、田んぼの向こうに、赤い石州瓦をのせた民家が現れる。この家は、有田さんの父方の祖父母の家だった。幼い頃から何度も訪れた思い入れのある家で、祖父母が亡くなり、住人不在となったのが2018年のこと。
親族の今の生活拠点は皆遠く、有田さん家族も普段は東京に住んでいる。解体も考えたというが、何とかその「空気感」を残したいと、夫で建築家の小野寺匠吾さんが改修設計を担うことに。
敷地にはいくつかの建物が点在しているが、まず取り組んだ母屋は、築120年。「伝統的な農家形式がベースですが、長い年月の間に増改築が繰り返されてきたため、不要な梁(はり)があったり、構造も補強が必要だったり。既存のものをできるだけ生かしつつ、ここを“新しい使われ方”ができる場所にするため、全体を捉え直す必要がありました」と小野寺さん。