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ワンコインの古着を3,000着買った男。〈BOOKONN〉店主・中嶋大介

年間1,000着の古着を買い続ける男がいる。その総数、優に3,000着を超える。だが、別にコレクターではないのだという。買う古着は基本、500円以下。血眼になって超こだわりのヴィンテージを掘り出しているわけでもない。一人の男が見出した、新しい古着の愉しみ方。

初出:BRUTUS No.824「古着好き。」(2016年5月15日発売)

photo: Ayumi Yamamoto / text: Daisuke Nakajima

ぼくが古着を3000着も買った理由

年間1000冊以上の古本を買う生活を15年続けていた。しかし、4年前からほとんど古本を買わなくなり、年間1000着の古着を買うようになった。急に古本を買うことがつまらなくなったのだ。

Amazonマーケットプレイスの登場などインターネットで古本の売買をすることが普及し、タイトル、著者、出版社を打ち込めば、簡単に目当ての本を見つけ買うことができるようになった。この便利さが、つまらなさの原因だ。

誰でも簡単に買えるのに、なぜ自分も参加しなければいけないのかと疑問を持つようになった。そして、誰もやらないようなおもしろいことがしたいと考えるようになった。そこで注目したのが古着だった。目当ての古着を買いたいと思っても、インターネットで探すのは簡単ではない。

タグがある場合でもブランド名と素材がわかる程度で、タグがなければその服を言葉で表現することは困難だ。通販で古着を買う人も多いと思うが、これほど通販に適していない商材はないのではないだろうか。サイズや状態などの問題もある。ぼくにとっては好都合だった。古本を買うことで培ってきた「より良いものをより安く買う」術を活かし古着を買えば絶対におもしろいことができるという確信がぼくにはあった。

ぼくがまず目を付けたのはリサイクル古着屋だ。お客さんから買い取った商品を雑多に並べている決してお洒落ではない店。万が一お宝があればラッキーという気軽な気持ちで毎日リサイクル古着屋へ通うようになった。

万が一に賭けるには、とにかく足で稼ぐしかない。お宝を見つけ出す審美眼も必要だが、年間1000着も買っていれば自然と身につく。これは、古本や古着でも同じだが、毎日通い買い続ければ、びっくりするようなお宝を激安で買うことは難しいことではない。

「なぜ、そんなにたくさん買うのか?」と呆れた表情で聞かれることがある。ぼくだってたくさん買っている自分に呆れているし、決して大量に買いたいと思っているわけではない。部屋には大量の古本と古着があり正直困っている。それでも買う理由は、探すことが楽しいからだ。

一日中古着屋をまわって一着も買えなくてもかまわない。買うことが目的ではなく、探すことが目的なのだ。お宝を探し当てタダ同然の値段で売られているから買っているだけだ。古着を探すよりも楽しいことが見つかれば買う必要もなくなるだろう。

実際、古本も同じ理由でほとんど買わなくなった。最近も毎日古着屋へ通っているが、月に20着程度しか買っていない。自分の中でお宝の基準が上がったからだ。

〈BOOKONN〉店主・中嶋大介
最近、一軒家に引っ越したばかりの中嶋大介さん。45Lのゴミ袋に詰めた古着(約80袋分!)を袋から出し、ジャンル別に仕分け。部屋一面が古着で埋まる。

2万冊の古本と3000着の古着を買っておいて言うのもどうかと思うが、所有欲はあまりない。ぼくにとって、古本や古着はコミュニケーションツールだ。「こんなお宝をこんな値段で買った」と言いたいだけなのかもしれないと、過去の自分を振り返って思うことがある。

これからは、ぼくが集めた古本や古着を誰かにあげたりシェアできないかと考えている。誰かにあげたりシェアすることで新しい物語が生まれれば楽しいのではないかとぼんやり思い描いている。その物語を記録すればおもしろいことができるという確信はある。まだベストな答えは見つかっていないが、すぐにでもはじめるつもりだ。

ここに写っている古着は、いずれあなたのモノになるかもしれない。不思議なことのように思うかもしれないが、決してそんなことはない。なぜなら、これらの古着は、もともとぼくではない誰かのモノだったのだから。