Read

Read

読む

釣りの同人誌『OFF THE HOOK』創刊

確かに釣りははやりつつある。しかし、この同人誌にはトレンドとは違う、超個人的かつ多様な釣りの話をラインアップしている。あえて紙で表現する理由と、誌名に込められた思いについて。

Photo: Keisuke Nakamura / Text: Toshiya Muraoka

写真家の平野太呂からの声がけによって、〈ナカムラグラフ〉の主宰でデザイナーの中村圭介、ライターである私、村岡俊也の3人によって、同人誌『OFF THE HOOK』を始めることになった。

年に一回というスローペースながら、ひとまず5年間の刊行を予定している。同人3人に加えて毎号ゲスト執筆者として数名を迎え、初号には〈NEPENTHES〉のディレクター・青柳徳郎や根室に暮らすジュエリーデザイナーの古川広道などが参加している。

道東におけるフライフィッシングでのイトウ釣りのようなドラマチックなテーマもあれば、近所での雑魚釣り、あるいは釣りを媒介とした父との関係を描いたような文章も掲載する。

なぜ「釣り」なのかといえば、同人3人の共通の趣味だから、というだけでなく、それぞれのスタイルに精神性が如実に反映されるから。例えば写真集『POOL』など、スケートボードのカルチャーからキャリアをスタートしている平野太呂は、スケートと出合う以前の少年期には、父・甲賀さんとともにヘラブナ釣りに深くハマっていた。

人知れずスケートで滑る場所を探す行為は、釣り場をリサーチし、自分の足で見つける作業に似ているという。生活に組み込まれた、自分の頭と体で考える時間。魚に感情を揺さぶられる体験は、その人だけが持つ贅沢なものであり、『OFF THE HOOK』は、体験の共有のためというよりも、「うらやましいぜ!」と自慢させるツールかもしれない。いや、文章を読む体験にも、釣りと同じだけの自由があると考えている。

OFF THE HOOK
OFF THE HOOK

同人誌というニッチな媒体である理由のいくつかも、そこにある。できるだけ多くの人に読んでもらうためにウェブで展開するよりも、日々の小さな楽しみとして「個人的な物語」を手元に置いてほしい。誰かと共有する必要もない。本来、楽しみとは個人的なものであるはずだから。

『OFF THE HOOK』とは、「釣り針を外す」の意味だが、「窮地を脱する」とか「自由になる」という意味もある。釣りは、目的と手段が渾然となった営みであり、つまり魚を釣るために出かけた時点で、その釣りはもう完成している。あとは、どう物語を紡ぐかだけ。その紡ぎ方に、否応なく人生が表れてしまうんです、本当に。

『OFF THE HOOK』はさらに、「素晴らしい」というスラングでもある。

OFF THE HOOK