教えてくれた人:〈茶酔(ochayoi)〉後藤景太郎
岩茶房(中目黒)
究極の岩茶体験
後藤さんが「まず行ってみてほしい」と真っ先におすすめしてくれたのは、中目黒〈岩茶房(がんちゃぼう)〉。ここで楽しめるのは、「岩茶(がんちゃ)」という中国茶。福建省・武夷山の岩山に生育する茶樹からつくられるウーロン茶で、岩のミネラルを含む香味が特徴だ。
佐野典代さんは、かつて中国で初めて岩茶を飲んだとき、心と体に浮遊感のような不思議な変化が訪れる「お茶酔い」を経験したという。その体験を日本でも伝えたいと、喫茶形式のこの店を開いた。
専門店とはいえ、空間には堅苦しさがない。大きな窓から差し込む自然光と、ゆるやかに流れる時間が、訪れる人の緊張をふっと溶かしてくれる。
「東京のど真ん中なのに、そこだけ東京じゃない感じがするんです。敷地に入ると、喧騒がスッと消えるような。〈岩茶房〉でお茶を飲むと、気持ちがリセットされる感覚があります」と後藤さんが話すように、ここは都会のオアシスのようだ。
メニューには十数種もの岩茶が並ぶ。初めての人でも迷わず選べるよう、味・香りの特徴や、「頭を使いすぎたときに」「アレルギーやデトックスに」など効能の説明も添えられている。
1杯目はスタッフが煎れてくれ、2杯目以降は自分のタイミングで。ポットに入ったお湯はおかわり自由で、何煎も重ねて味の変化を楽しむことができる。淹れ方に不安があれば、スタッフが気さくに教えてくれるのもありがたい。
「〈岩茶房〉は私にとってセカンドホームみたいな場所。佐野さんに歴史や芸術の話を聞いたり、世間話をしたり。いつも気がついたら時間が経っていて、最低2時間は滞在します」と後藤さん。
「お茶酔い」の真髄を体験できる数少ない場所でありながら、誰にでも静かに扉を開いてくれる。〈岩茶房〉には、型も正解も求められない、ただ在ることが許される空気がある。
中国茶房 一期一会(目白)
はじめての中国茶は点心とともに
最初から中国茶専門店に行くのは、少し緊張するもの。そんなとき気軽に門をたたきたいのが、目白駅からほど近くの〈一期一会〉だ。
中国人オーナーが営むこの店では、中国茶を楽しんでもらうための入り口として、点心とお茶のセットが用意されている。セットにつく生プーアル茶「白園」は、専属契約した畑の茶葉からつくられたこだわりのもの。1煎目は煎れてくれ、あとはブランチやお茶請けを楽しみながら、自分のペースで何煎も煎れて味わうことができる。煎れ方がわからない場合は、スタッフが丁寧に教えてくれるので安心だ。
親しみやすいセットメニューがある一方で、取りそろえる茶葉の種類は実に幅広い。中には、少し珍しいものも。店を切り盛りするスタッフの中神直子さんおすすめの「太平猴魁(たいへいこうかい)」は、茶葉を一枚ずつ炭火で炙って仕上げた緑茶。濃厚ながら、清らかな後味が長く続く、絶妙なバランスの一杯だ。
また、店内では茶葉の購入も可能。後藤さんは、珍しいお茶を探しているときに〈一期一会〉を訪れるという。「ここには、プーアル茶の固形茶『餅茶』があるんです。英語だと『Tea Cake』なので、友人に誕生日ケーキとして渡したことがあって。年数を重ねるほど熟成していくので、毎年会ってこのお茶を飲もうとプレゼントしました。結局、その友人は1年で全部飲みきっちゃったんですが(笑)」。
〈一期一会〉では、講師を招いたお茶会や薬膳と中国茶とのペアリングなど、中国茶をもっと身近に楽しめる催しも定期的に開催している。初心者からお茶の愛好家まで、ここは誰にとっても新しい中国茶との出会いの場になるだろう。
サウスアベニュー(西荻窪)
旅する感覚で茶葉を探しに
ジャスミン茶を中心にプーアル茶、紅茶、白茶、緑茶の茶葉を取り揃える〈サウスアベニュー〉。店に足を踏み入れた瞬間にジャスミンの花の香りに包まれ、異国情緒が感じられる。
一口にジャスミン茶と言っても、「針王」「銀針」「珍珠王」など、種類はさまざま。ペットボトル飲料としても馴染み深いジャスミン茶だが、その香りは段違い。スタッフの安那美香さんによると、ジャスミン茶の香り付けは天候によって使う茶葉を変えたりと、とても技術のいる職人技だという。
そのような話が聞けるのも、スタッフの安那さんとオーナーの岩崎悦子さんがこれまでにいくつもの中国茶の産地を訪れてきたから。その足跡は、壁一面に広がる手作りの地図とスクラップブックに表れている。お二人は毎年、ジャスミン茶の産地である福建省をはじめ、各地に赴いているという。
後藤さんも、〈サウスアベニュー〉の見どころはやはりスクラップブックだと話す。「お二人の旅の記録がまとめられたスクラップブックは、一次情報の宝庫。インターネットには絶対に上がっていないような、リアルな体験がフィジカルな形に落とし込まれていて凄みがあるんです。立体的に作られた地図も含めて“行き過ぎた自由研究”という感じ。尊敬しています」。
スクラップブックを眺めながらお茶をいただいていると、まるで旅の記憶ごと味わっているような感覚に。異国の地の物語をまとった茶葉を持ち帰り、自宅でも味わってみてはいかがだろうか。