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人生の豊さを表現することができる。ミュージシャン・小袋成彬が語るジャズ

今、ミュージシャンが一番夢中な音楽、それはジャズかもしれない。ロック、ヒップホップ、R&B……音楽家は、その魅力をどう捉えているのだろうか。ミュージシャン・小袋成彬におすすめの3枚とともに大いに語ってもらった。

初出:BRUTUS No.1002「JAZZ is POP!!」(2024年2月15日発売)

photo: Wakana Baba / text: Shunsuke Kamigaito

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音が紡ぐ複雑で美しいストーリー

僕がロンドンで遊んでいる界隈にはレコード収集家が多く、彼らとDJをする時によくジャズで場を繋ぎます。文化が根づいているので、ハウスとかの間に流しても盛り上がるんです。音楽は一つのコードや歌詞の響きだけでなく、その前後が繋がってストーリーを紡ぎ出すものだと思います。

ジャズは複雑さと美しさを併せ持っているからこそ、人生の豊かさを表現することができる。僕も経験を積んだ30代になってからより深く理解できました。瞬間的にトピックだけが消費される時代において、広い視野で芸術を楽しむことの大切さを思い出させてくれるんです。

小袋成彬が選ぶ、おすすめの3枚

Q1:オールタイムベストは?

『Directstep』Herbie Hancock

1978年の来日ツアー中に実現したスタジオレコーディング作品。15分を超える長尺の曲もあるんですが、何回聴いても無駄じゃなかったと思える名盤ですね。全体的な完成度が高く映画を観ているかのよう。テクニックでエモさを出したくなるところを抑えて、自分の演奏を淡々と続けるさまにクールさを覚えます。

Q2:2023年に一番聴いたのは?

『In a Silent Way』Miles Davis

京都で朝までDJをした時、太陽が山から顔を出すタイミングでこのレコードをかけたんです。そしたらフロアにいた人たちがみんな目をつぶって揺れる、ゆったりとした時間が流れて。思わず泣きそうになったんですよね。マイルスの豊かなハーモニーに没入する感覚を人と共有できた貴重な体験でした。

Q3:これからジャズを聴く人へのおすすめは?

『The Melody at Night, with You』Keith Jarrett

キース・ジャレットが難病から復帰後に発表した作品。僕は難しい音楽を簡単に見せることがプロの技量だと思っていて。これもなぜか簡単に聴けてしまうアルバムなので入門におすすめです。「I Got It Bad and That Ain't Good」はしっとりした中に大きなうねりがあって、雨の日に聴くと絶対に感動するはず。

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