夏は海水浴客で賑わう、新潟市の南西、日本海に面する角田浜。そこから内陸へ約1km入った場所に「新潟ワインコースト」と呼ばれる5軒の小規模ワイナリーの集積地がある。その中心がここ〈カーブドッチ ワイナリーステイトラヴィーニュ〉。
近郊のビーチと同じく砂質土壌で、ブドウの栽培地としては特異な環境だ。それを個性に変えようと醸造責任者・掛川史人さんが心血を注ぐのが、テロワールを誠実にボトルに詰めること。
「よそでは育ちすぎで悩まされる欧州のワイン専用品種も、痩せた土壌が功を奏して、適度な大きさ、味わいの濃さで収穫できます。ワインにすると砂のように軽やかで華やかな香りを放つ品種が多いため、その特徴を最大限に生かすべく醸造の全過程で工夫を凝らします」
そんな〈カーブドッチ〉がテロワール、また1992年から続くワイン造りを身近に感じてほしいと注力するのが宿泊。2009年に温泉宿泊施設〈ヴィネスパ〉を開業し、19年にはブドウ畑と広大な角田山(源泉はこの地底にある)を望む場所にオーベルジュ〈カーブドッチ ワイナリーステイ トラヴィーニュ〉をオープンさせた。
コロニアル調の客室に宿泊して地元の食材を用いたフレンチと醸造所のワインを味わい、温泉にも浸かれる。ワイナリー観光に新たな楽しみを持ち込んだのだ。
トラヴィーニュでの滞在はラウンジでブドウ畑を眺めながらのウェルカムドリンクに始まり、ディナーも畑を望む前庭からスタート。アペリティフとワインを楽しんだら、レストランへ移動する。コースの主役はノドグロや本州鹿などの新潟産の食材に加え、目の前の畑や醸造所からも。
鮮やかな酸味の二番なりブドウはサラダのアクセントに、牛肉のローストはカベルネ・ソーヴィニヨンの枝葉で燻(いぶ)されて登場する。〈カーブドッチ〉の“宝”を知り尽くすシェフとソムリエだからこそ成せる、至高のマリアージュ尽くしなのだ。

朝食を彩るのは、共に敷地内にある〈レストラン薪小屋〉の自家製シャルキュトリーに、〈コテアコテカフェ〉の焼きたて薪窯天然酵母パン(ブドウの枝葉を添えて提供)。ヴィネスパの〈本屋カフェ〉では朝から飲めるため、チェックアウト後も心ゆくまでワインを楽しもう。
