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入口はメロディアスでキャッチーな楽曲。KIRINJI・堀込高樹の考えるジャズの楽しみ方

100年以上前に生まれたジャズという音楽は、2023年の現在、あらゆるジャンルと混ざり合いながら、刺激的な音楽に進化している。そんな“今、最も面白い音楽=ジャズ”の入口を、KIRINJIの堀込高樹さんがご案内。さあ、肩の力を抜いて、新しいジャズの世界へ!現在、ジャズの魅力をさらに深掘る特設サイト「JAZZ BRUTUS」もオープン中!



photo: Kazuharu Igarashi / text: Emi Fukushima

入口としてのメロディアスなJAZZ

ジャンルを横断しながら洗練されたポップスを生み出すKIRINJIの堀込高樹さん。彼のジャズの入口もまたメロディアスな楽曲だった。

「父が音楽好きで、幼い頃、家ではカントリーやラテンなど様々な軽音楽のレコードがかかっていました。その一つにジャズもあって。マイルス・デイヴィスやCTIレーベル時代のウェス・モンゴメリーなど、今振り返ると、アドリブの迫力よりもメロディが際立ったわかりやすい曲を耳にしていましたね」

中でも原点の一つとも言えるのが、1965年のホレス・シルヴァーのアルバム『Song For My Father』。

「子供心にメロディとハーモニーの綺麗さが心に残りましたね」

音楽の道を志してからもジャズを聴き続けてきた堀込さん。それはKIRINJIの楽曲の随所に表れる独特のハーモニーのきっかけにもなった。

「最も血肉になったのはコード感でしょうか。僕の場合、ロックやポップスではあまり使われないマイナーナインスやメジャーナインスなどが、曲作りを始めようとすると自然に出てくるんですよね。それらのコードは、理屈上は複雑でもギターで押さえる指の形としては意外とシンプル。理論より先に響きを知っていたがゆえに抵抗がなかったんです」

“越境”したジャズには、新たな試みが詰まっている

そしてミュージシャンとしての堀込さんに日々影響を与えているのも、ジャズ特有のハーモニーを響かせつつもメロディが立った音楽たち。特に他ジャンルと溶け合うコンテンポラリーなジャズには気づきが多い。

「ブルースがジャズに変容したように、ジャズは次第にカントリーやロックも取り込みました。契機になったのは1960年代頃なのではないかと思っています。ゲイリー・マクファーランドがビートルズの曲にアプローチしたり、キース・ジャレットがボブ・ディランのカバーを録ったり。これらは後に“フュージョン”として確立していきますが、越境して生まれた楽曲には試みが詰まっていて、曲作りのヒントをもらえるのでよく聴いています。ジャズの面白さは、他ジャンルのフレーバーを引き継ぎながら時代の音楽と柔軟に溶け合うところにありますね」

最近ならば「まずはサンダーキャットやルイス・コールがオススメ」と堀込さん。そのキャッチーさが、ロックやポップスを聴いてきた人にも馴染みやすいのではと提案する。

「サンダーキャットは、ジャズのテクニックを用いてソフトロックやAORっぽい曲を生み出していて、まさにジャンルの境目がありません。またルイス・コールならビートに注目してみてほしいです。多くの人がジャズに物足りなさを感じる一因は、拍子が曖昧でドラムのドシッとした感触がないことだと思います。でも彼の音楽は、ジャズの響きを独特の重みと圧があるビートでまとめている。グッとくる人も多いのではないでしょうか」

JAZZの要素とキャッチーさを併せ持った4作品

『Song For My Father』
アフリカ音楽やラテン音楽などを取り入れ、独自の音楽性を切り拓いたジャズピアニスト、ホレス・シルヴァーによる1965年発表のアルバム。「表題曲は、ラテンのビートとわかりやすいメロディが特徴。ジャズなのにほかと違う感じが、子供心にグッときました」

『A Day In The Life』
ジャズギタリスト、ウェス・モンゴメリーの1967年発表のアルバム。「中高生の頃に聴いていた作品。当時はジャズのアドリブに少し抵抗があったんですが(笑)、この作品のは聴きやすく、フレーズをギターで拾ってみたりしていました。曲作りの役にも立ったかも」

『Drunk』
サンダーキャットがソロミュージシャンとして一躍名を馳せることになった2017年発表の3枚目アルバム。「ジャズのエッセンスがロックやポップスと溶け合っていてキャッチー。日本のサブカルチャーからの影響が垣間見えるのも面白いです。入門にオススメ」

『Time』
ソングライター兼プロデューサーのルイス・コールによる2018年発表のアルバム。サンダーキャットとの共作「Tunnels In The Air」も収録。「彼の作品の中でも特にソフトロック感が強く、ポップスやロックに聴き馴染んでいる人にも聴きやすい作品です」