Listen

Listen

聴く

King Gnu、藤井風…J-POPの裏には、ジャズが隠れている?江﨑文武が語る

100年以上前に生まれたジャズという音楽は、2023年の現在、あらゆるジャンルと混ざり合いながら、刺激的な音楽に進化している。そんな“今、最も面白い音楽=ジャズ”の入口を、江﨑文武さんがご案内。さあ、肩の力を抜いて、新しいジャズの世界へ!

現在、ジャズの魅力をさらに深掘る特設サイト「JAZZ BRUTUS」もオープン中!

illustration: Hitoshi Kuroki / text: Emi Fukushima

「ジャズは一見とっつきにくいようで、今の日本のポップスとも大いに接続している音楽なんです」

そう話すのは音楽家の江﨑文武さん。小学生の頃に出会ったビル・エヴァンスの『Waltz for Debby』を機にジャズ漬けの10代を過ごしてきた彼は今、そのルーツを提げながら現代のポップスシーンにも挑み、新たな試みを続けている。

「音楽史を振り返るとJ−POPとジャズが密接だった時期が幾度かあります。そしてまさに今もそう。僕と同世代の30歳前後を中心にジャズの素養を持つミュージシャンが活躍しています」

次世代に影響を与えたグラスパーの新たなジャズ

J−POPとジャズが接近しているという今の流れを語るうえで欠かせないミュージシャンの一人がピアニストのロバート・グラスパーだ。

「ジャズミュージシャンがヒップホップにアプローチし、しかもそれを生楽器によるバンドサウンドで演るのが画期的で。2012年の『Black Radio』は、僕と同世代の多くがバイブル的に愛聴していましたね。例えば、WONKのドラマーの荒田(洸)は、グラスパーバンドのドラマー、クリス・デイヴに心酔して、音楽どころかファッションまで彼を意識していたし、King Gnuのベーシストの新井(和輝)はデリック・ホッジに影響を受けていた。こうした“グラスパーごっこ”のようなセッションをする学生があちこちで出てきて。そんな彼らが、より多くの人に音楽を届けようと、ポップスのシーンに出ていったんです」

そうしたジャズ的素養は、WONKや、江﨑さんが共に音楽活動をするKing Gnuのみならず、ほかのミュージシャンにも見られる。

「例えばOfficial髭男dismの曲には、トランペットとドラムでトラックメイクをするブラストラックスの影響が色濃く感じられます。また藤井風くんの楽曲は、プロデューサーのYaffleさん、バックでベースを弾く小林修己さん、レコーディングメンバーの勝矢匠さんなど、大学のジャズバンドサークル出身者が脇を固めています。あと中村佳穂さんの周辺にもジャズ出身のミュージシャンがいますね。直接的な引用はなくとも、各サウンドにはジャズのエッセンスが詰まっているんです。中村さんとは以前、ハイエイタス・カイヨーテの話で盛り上がったことがありますが、インタビューやSNSなどで、ミュージシャンやそのバックにいるプレーヤーがどんな音楽を聴いているのかを知ることから掘るのも手だと思います」

江﨑さんいわく「アメーバのように様々な音楽をじわりと侵食していくのがジャズの魅力」。身近に潜むその要素に気づくことで、ジャズの世界の入口に立てるかもしれない。

ジャズとの結びつきが強まった、日本のポップス史における3つの年代

日本のポップス史
1950年代には、原信夫とシャープス&フラッツを筆頭に、歌手を中心にバックをビッグバンドが固めるスタイルが歌番組などで主流に。70年代には山下達郎や荒井由実、坂本龍一らが登場。ジャズやフュージョンが席捲する当時のアメリカ音楽の影響を受けた音楽性と、プレーヤーが複数のバンドを掛け持ちするジャズ的でシームレスな活動スタイルに。2020年代には、新たなジャズに影響を受けたミレニアル世代がポップスシーンで活躍。