光と影のための、工業的な手仕事
オフホワイトに落ちる影が美しいプレートやカップ。一見、工業製品にも見える無機質で簡素な佇まいは、移ろう光や照明の違いによって姿を変えることを前提に設計されている。大学で建築を学び、側(がわ)に頼らずに空間を変えてしまう家具というものに興味を持ったという岩田哲宏。インテリアの延長として器を扱う中で、テーブルの上の小さな世界が織り成す、光の景色に魅了されたという。
「もともと北欧やバウハウスに代表されるシンプルで実用的な工業デザインが好きで、自分の器もどんなシーンでも使える、なるべくプレーンなものにしたかった。そこで、あえて陰影だけで魅力のあるものが作れないかと考えたのが始まりでした」
2019年、独立して東京にアトリエを構えてから、リムをシャープに立たせたプレートや、ハンドルにエッジを持たせたカップなどを思いつく。光と影を美しく見せる半磁器の白の土は量産品のようなイメージがありながらも、素朴な轆轤目(ろくろめ)などに作り手の痕跡を残している。
「デザインに自分の体験や過去に見た景色を反映することが多いですね。初期に考案したエッジプレートは、生まれ育った鳥取の港町で、海の上に突き出した防波堤が陰影を刻む様子を再現しています。アニメに出てきた典型的な食器の形にヒントを得たり、映画館で手にしたポップコーンの容器から発案した器もあります」
定番化する判断基準は、実際に家で使ってみて食器棚の奥にしまわれないかどうか。使い勝手やサイズ感を家族とやりとりしながら、きちんと実用性のあるものに仕上げていく。一方で、岩田の発想の柔軟さを体現するのが、実用を離れたアーティスト性の高いオブジェや花器だ。
「こちらは器とは全く違う考え方で、建築的でプリミティブな形状を組み合わせたり、趣味で始めたミニ四駆のビスを材料に使ったり、その時々の興味を形にしています。土の周囲を覆うものを、薄い釉薬でなく分厚い樹脂に替えたら陶器として認識してもらえるのか、ということを試したくて作ったオブジェもありますね。僕の中で、器だけで表現するには少し何かが足りなくて。オブジェも並列にあって、初めて自分の作品として完成するような気がしています」
独立して4年余りで、陰影を際立たせる土や、いくつかの定番の形、自身の作風へと辿り着いたが、これは決してゴールではない。まだまだ、やりたいことは止めどない。
「陶芸のルールに縛られず、思いついたことは新しい技術も取り入れてどんどんやってみたい。そういうスタンスのもの作りができるのが、僕らの世代の面白さだと思いますね」