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いま知りたい、新世代の器作家・笹川健一。心にも深く余韻を残すガラス

国内のみならず、海外からも注目を集める若手作家の台頭が目覚ましい。先達たちが築いてきた日用の器の美しさやアートとしての挑戦の先に、目指すところも、制作の技法もそれぞれに異なる新世代の器作家たちは、いま何を考え、何に夢中になっているのか。1981年生まれのガラス作家・笹川健一のアトリエを訪ね、聞きました。


本記事も掲載されている、BRUTUS「器の新時代。」は、2023年9月1日発売です!

photo: Yoshiko Watanabe / text: Mako Yamato / edit: Tami Okano

静謐(せいひつ)にして雄弁。心にも深く余韻を残すガラス

ガラス作家・笹川健一が製作した組み物
東京〈小灯〉の依頼で作った右の「やわらぎ水セット」を皮切りに、力を入れる組み物。

グレーともブルーともつかない曖昧な色合い。薄い生地と控えめに主張する細かな気泡。笹川健一が「目で触れる質感が欲しくて」と作り上げた吹きガラスは、古物のような趣もありモダンさも漂わせる。

美大で当初は工業デザインを目指すものの、実際に自分の手を動かしてものを作ることに惹かれ、ガラスの道へと進んだ笹川。学生時代はオブジェやインスタレーションに取り組み、卒業後は制作の場を求めて金沢卯辰山工芸工房へ。

「ニュータウン生まれのため、金沢は街並みも含め目につくものがすべて新鮮で。美術館も博物館もたくさんあるし、茶道も習って工芸の難しさも肌で知ることができました」

工芸をごく身近に感じるうち、いつしか実用の器作りへと軸足が置かれるようになっていった。

「器の表情や景色を考えるようになったのは、茶に触れたことも大きかった」と振り返る。拠点を再び関東へ移し器作りを続けるうち、今度は無色透明のガラスという素材に物足りなさを感じ始める。

「独立前だと窯は誰かとの共有で、きれいな工業用ガラスを使うことがほとんど。自分だけのガラスが欲しければ窯を持つしかない」。行き着いたのはリサイクルガラス。蛍光灯の再生ガラスを使い、そのままでは緑色になるところを酸化コバルトや酸化銅を加えて色を整える。窯の火はあえて朝工房に来てから入れ、一日の終わりに火を落とす。こうすることでガラスは中の泡が抜け切らず、わずかに気泡が残るものとなる。

「そもそも原始のガラスは不透明だったし、精製された印象のガラスからも離れたかったのだと思います」

京都へ拠点を移してからは、分業が一般的なガラス制作を一人で行う。

「ガラスは道具を介してしか触ることができません。慣れれば手と同様に使いこなせますが、道具ならではの不自由さが僕にはちょうどいい」

ガラス作家・笹川健一が製作した脚付きグラス
ワイングラスなど脚付きグラスは、吹きガラスのテクニックが集約されているという。「造形がガラスらしくて好き」と笹川。

工房の入口にトレーに並べられて作品が置かれていた。聞けばもう一度溶かして新たな作品にするという。「数年前に作ったものですが、例えばほら、ワイングラスのステムが現行よりほんの少し太いでしょう」と笹川。一人で制作に打ち込みたい理由がわかった気がした。

「自分の仕事は工芸家として素材に惹かれている部分と、工業デザインを目指した部分が重なって成り立つもの。アイデアの前提には常に自分が調合したガラス生地があり、その美しい表情を生活に定着させるために器の形を与えます。道具としての機能性に加え、場の空気感や時間、風景といった感覚的な部分に作用する美をもたらすことができれば」

ガラス作家・笹川健一
緑に囲まれた一軒家の工房。一人での作業がスムーズに行えるよう、整然と整えられている。