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いま知りたい、新世代の器作家・岩切秀央。柔らかな歪みと色彩が作る、手触りのいい陶器

国内のみならず、海外からも注目を集める若手作家の台頭が目覚ましい。先達たちが築いてきた日用の器の美しさやアートとしての挑戦の先に、目指すところも、制作の技法もそれぞれに異なる新世代の器作家たちは、いま何を考え、何に夢中になっているのか。1991生まれの陶芸家、岩切秀央のアトリエを訪ね、聞きました。


本記事も掲載されている、BRUTUS「器の新時代。」は、2023年9月1日発売です!

photo: Hiroki Isohata / text: Masae Wako / edit: Tami Okano

柔らかな歪みと色彩が作る、手触りのいい陶器

陶芸家・岩切秀央が制作したボウル、リム皿、カップなど
左奥は高台のない素朴なボウル。手のひらにすっと収まる形が人気。リム皿は直径15〜23㎝の3種。

モランディの絵のような印象そのままに、岩切秀央の器は色も手触りも上品で柔らかい。縁の丸いリム皿にもボウルにも軽やかな歪みがあり、陶肌はベージュの色ムラで覆われている。

「お手本にしているのは、古代エジプトで作られたアラバスターのボウルや江戸時代の手塩皿。リム皿の参考にしたのはインドの石皿です」

人気ギャラリーの店主だけでなく、古道具店の目利きたちにも注目される作家は、ポツリポツリとそう話す。

鹿児島県南九州市。見渡す限り田んぼが広がる土地で、馬屋付きの古い民家を借り、妻と1歳の娘と暮らしている。土間を生かした工房には電気窯が3台。屋根裏は自身の陶オブジェなどを展示するギャラリーだ。

大学で陶芸と出会った頃、夢中になったのは立体作品やアートだった。2021年に独立した後も、時間が許せば食器以外のアート作品を手がけている。今の自分が美しいと思う形や質感を生み出すための手段は、一つでなくたっていい。

さて、岩切の器はとにかく手触りがいい。例えばマグは軽くて丸くてさらりとして、飲み終わった後も手の中でもてあそびたくなってしまう。軽さの理由の一つはその技法。

「粘土を薄くスライスしたものを石膏型に押し当てて成型する“タタラ技法”で作っています」

30種以上ある石膏型も自ら作る。型一つ完成するまでに何十個もの原型を試作し、完成後も使い手の反応を見ながら改良を繰り返すそうだ。

タタラ成型が面白いのは、一つの「型」から、全く同じ器ができるわけではないところ。粘土を押し当てる指の加減や、粘土を型から外す時のわずかな歪みが、焼いた時に一枚一枚の個性となって現れる。

「歪みは、僕と土の関わり合いが形となったもの。土が写し取った形や表情をできるだけ生かしたいんです」

成型後は、土を水で溶いた“化粧土”をかけて素焼きし、その上から透明釉を薄く施して本焼成する。

「化粧土をかける際は、器の縁をつまんでザブンと土につけ、土が流れ落ちる軌跡も、つまんだ指の跡も、そのまま生かします。イメージするのは霧に囲まれた時の、自分と周囲の境界線がなくなるような風景。そういう幻想的な色ムラを出したくて」

高田石切場
石好きだという岩切が時折訪れる、古代神殿のような〈高田石切場〉。江戸時代に石を切り出した跡地。

化粧土には市内の頴娃(えい)という町で採れる、赤みのない土を使っている。縄文早期の土の層だそうで、聞いた時は古代好きの心が躍った。焼成すると、土の表面に縮れたような細かいヒビ模様が入り、いい景色を作る。

「何百年か経って、海外の蚤(のみ)の市に並んだ僕の器を見た誰かが、“だいぶ古いけどいい表情だ”なんて、手に取ってくれることを夢見ています」

陶芸家・岩切秀央
県内の空き家再生事業を知って借りた馬屋付き民家を工房兼住居に。奥には自作の石膏型。