膨大な量の書籍が天井近くまで積み上がり、もたれ合うそのさまはもはや自然界にも近い混沌を感じさせる。とはいえ、この書評家ならぬ自称「本のおススメ屋」内藤氏のそれがいわゆる“積ん読”で収まるはずもなく、毎日平均2冊は読破していたというから恐るべし。「読んでは積み」の無限ループがこの“ウォール・オブ・ブックス”を生み出したのだ。
内藤氏のもう一つの顔、それは新宿ゴールデン街のバー〈深夜+1〉オーナー。夜な夜な本好きが集まるこの店で内藤氏の下で働き、2011年の氏の逝去後に店を引き継いだ須永祐介さんの証言によれば、「亡くなる直前には、この写真よりもさらに“タワー”が増殖し、通行も困難だった」とのこと。東日本大震災が起こった際、内藤氏が病により入院していたため、須永さんが自宅の様子を見に行くと「ドアを開けた瞬間、本が雪崩のように流れ出てきた」という。
逝去後の「お別れ会」では、有志が氏の蔵書をトラックいっぱいに詰め込んで運び、祭壇にうずたかく本を積み上げて読書人の死を悼んだ。「“金がなくても、本を読めばどこへでも行ける”とおっしゃっていた会長は、亡くなる瞬間まで本を手にしていました」。3ヵ月をかけて遺品が整理され、すべての本が消えた自宅の床は、当初より8cmほど沈んでいたという。