熊野さんの2軒隣で、5人家族で暮らすのが、デザインを軸に展覧会を作る仕事に携わってきた前村達也さん。家の設計は熊野さんと進めた。太陽の動きとリンクした間取りは熊野邸と同様。東側の寝室で朝日とともに目覚め、南向きのリビングで日中を過ごす。そして西日を感じながら夕食の支度ができるようキッチンを配した。南向きのテラスは彼らならではの要素。前村さんはこう話す。
「家族でご飯を食べたり、PCを開いて仕事の作業をしたりしています。僕らにとって外の空間は第二のリビングともいうべき重要な要素で、東京の狭いアパートにいた頃ですらベランダをフル活用していたほど。たとえ室内がコンパクトになろうと、テラスを広く取ることは欠かせませんでした」
内装でコンセプトとしたのは“日本の住宅のアップデート”。そこには海外の友人たちを招いた折に日本のデザインを体感してもらいたいとの思いが詰まっている。
「例えばキッチンは、ゆったりさよりコンパクトさを意識し、懐かしい日本の台所のような趣をイメージしています。ほかにもイサム・ノグチの《AKARI》をダイニングに吊したり、骨董品店で集めてきた民藝品を飾ったり。家のどこかに日本の生活に根づくデザインを感じ取ってもらえたらいいなと」
ヨーロッパで体感した本質的な暮らし
土地の取得、造成段階からプロジェクト全体のマネジメントを担った前村さん。苦労は絶えなかったが、ようやく手にした今の生活は何にも代えがたいという。
「東京に住んでいた頃は、仕事と暮らしが乖離していることに違和感を覚えていました。そんな折、2017年に約3ヵ月休暇をとって、家族でヨーロッパを旅したんです。
現地の同世代の家族が暮らす様子を見て、生活に根づくデザインの良さや仕事も生活も地続きなライフスタイルを体感したことで、僕たちも生活を見直すきっかけをもらって。仕事のリモート化が進んだことも助けになり、縁あって御代田に越してきてからは、本当の住処を見つけた感覚です。
以前は消費することしか選択肢がなく持て余していた週末も、薪割りに田んぼや敷地の手入れにと、暮らしの仕事で忙しくなりました」