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プロダクトデザイナー・熊野亘が生活を見つめ直し、辿り着いた御代田での暮らし

浅間山の南麓に位置する長野県御代田町。隣接する軽井沢と比べ観光客も少なくのどかな地域ながら、今、クリエイティブな仕事に携わる移住者が増えている。ここを新たな暮らしの拠点に選んだ熊野亘さんの家を訪れた。

photo: Taro Hirano / text: Emi Fukushima

太陽の動きと生活がつながる、自然と一体となった暮らし

「御代田には、時間の流れ方や余白のある土地の使い方にどこか北欧とも近しい空気を感じて。それが移住の決め手になりました」

プロダクトデザイナーの熊野亘さんが東京からの移住を決めたのは2018年。フィンランドでデザインを学んだ経験から、以前より自然に近い暮らしを模索していた。ピンときたのは両親が先に移住し縁があった御代田町。3600㎡もの広い土地を見つけた。

「友人でコンセプトディレクターの前村(達也)さんも同時期に郊外への移住を検討していて。この広さを生かして一緒の土地に住むのも面白そうだなと思ったんです」

ほかの仲間にも声をかけ、最終的には5家族で土地を共同購入。デザイナーや建築家らクリエイターたちが緩やかに関わり共に暮らすためのプロジェクトが始まった。

「土地の造成から自分たちで行ったのでかなり大変で。家が建つまでに3年以上かかりましたね(笑)。建てる家に関して統一することに決めたのは、グレーのガルバリウム鋼板とこの土地に生えていたアカマツを組み合わせた外壁と、屋根の基本設計の主に2点。間取りは各家族が自由に考えました」

家族4人で暮らす熊野さんの自邸は自ら設計。まず考えたのは、過酷な冬を越すため、いかにエネルギー効率を高めるかだった。

「ヒントを得たのは“登り窯”です。斜面を利用し最も低い位置に熱源を設け、熱を空間にうまく循環させられればと考えました」

ゆえに土地の傾斜に合わせてリビングにステップフロアを設け、一番低い位置に薪ストーブを設置。2階を吹き抜けにし空間をつなぐことで、暖気の巡りを良くした。

「開放的な空間では、どこにいても家族と言葉を交わしやすい一方、死角がなくなるという欠点もあります。意図的に空間のブロックをずらして角を作り、それぞれが1人になれる場所も作りました」

また家の造りには、当初より思い描いていた「自然に近い暮らし」への思いも形に表れている。

「意図したのは太陽の動きと生活リズムがリンクすること。キッチンを東に、浴室を西に設置することで、朝は太陽を感じながらコーヒーを飲み、西日とともに入浴ができるように。自然を感じながらの一日はやっぱり豊かですね」

2階と吹き抜けでつながる高い天井の食卓
2階と吹き抜けでつながる高い天井の食卓。中心にあるのは熊野さんデザインのダイニングテーブル。この4月にミラノサローネで発表された、カリモク家具の国産針葉樹を用いたシリーズ〈MAS〉のプロトタイプだ。