「祝いを撒く人」
お気に入りの韓国料理屋に行った時のことだ。閉店間際の店内は、不思議な高揚感に包まれている。店員さんたちはやけにテキパキ動いていて、さっき帰ったお客さんが座っていたテーブルは既にピカピカだった。一体どうしたというのだろう。いつもはダラダラしているのに。不思議に思いながら最後の一杯、生マッコリを注文すると、店員さんはいつも通りにこやかに注いでくれた。だけどどうにもそわそわしている。宝くじの抽せん発表でもあるんだろうか。
こちらまでそわそわしながらカップに口をつけると、厨房から普段はほとんど喋らないコックさんの声が漏れてくる。「誕生日だから」。お?!なるほど?!そうか今日は、店員さんの誕生日なのか。だから、お客さんがみんな帰ったらここでお祝いをするってわけね。いや~すいません。それは早く帰ってほしかったよな。早く祝いたいもんな。マッコリを飲むペースを上げる。
でも決して、急いでいるとみんなに伝わらないように。せっかく店員さんたちが、私たちにプレッシャーを与えないよう気遣ってくれたのだから、こちらも同じ自然さを持ってスムーズに退店したい。「マッコリが止まらん」顔をしながら飲み干して、満足です、を込めながら「お会計お願いします」と言うと、すぐに伝票がやってきた。
よし、これでいいのだ。支払いを済ませ、心の中で「誕生日おめでとう」と呟(つぶや)きながら席を立つと、突然目の前に現れる韓国のり。「どうぞ!」。したり顔で笑う店員さんの方が、一枚上手だったらしい。誕生日のおこぼれを頂いた私はふむふむ、誕生日にこそ人にプレゼントを用意するのもいいなと思うのだった。