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長井短「優しさ告げ口委員会」:手袋置いてく人

演劇モデル、長井短さんが日常で出会った優しい人について綴る連載エッセイ、第24回。前回の「並走する人」も読む。

text & illustration: Mijika Nagai

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手袋置いてく人

山手通りを走っていると、落ちている手袋とのエンカウント率が異常。今日は何手袋見かけるかな、ってのが私のちょっとした楽しみで、その日も、探すってほどじゃないけど時折足元に目線を落として自転車を漕いでいた。黒い手袋が歩道に落ちている。グレーの手袋が歩道に落ちている。あぁ落ちてるなと思うけど、自転車だし、わざわざ止めて拾うようなことはしていなかった。

その時、歩道に沿って植えられているツツジかなんかの上に、ポツンと赤い手袋が置いてあった。優しい誰かが拾って、見つけやすいようにと置いてあげたんだなってほっこりしながら走り続けると、数十m先に、今度は紺色の手袋が。またツツジの上に置いてある。黒、なんかベージュの柄のやつ、えんじ。規則性のない間隔で、でもツツジの上には手袋が置かれ続けている。冷たく忙しない山手通りは、手袋デコレーションで優しい道路になっていた。

ヘンゼルとグレーテルが小石を伝って家に帰ろうとしたみたいに、私もこの手袋の案内に従って移動しているような気持ちになる。そうやって、辿り着いた場所には何があるんだろう。同じ人が手袋を拾い続けたかなんてわからないけれど、そう思うとなんだか楽しい。山手通りの果てにはきっと、みんなの手袋をツツジの上に置いていく優しい人がいる。その人の家は何で出来ている?手袋?いやいやそれじゃあ変だよな。

でもきっと、そこは暖かい家だろう。もしかしたら、落とし物を拾う人たちの集合住宅かもしれない。姿の見えない優しさが、街をかすかに彩っていて、今年も東京は悪くない街だったなと思った。

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