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長井短「優しさ告げ口委員会」:胃カメラの母な人

演劇モデル、長井短さんが日常で出会った優しい人について綴る連載エッセイ、第21回。前回の「勇気守る人」も読む。

text&illustration: Mijika Nagai

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友達との会話の中に「健康」が出現し始めた今日この頃。私も何かしてみるかと、生まれて初めて胃カメラをやった。辛いって悪名は聞いていたので、ドキドキしながら病院へ向かう。サクッと飲んじゃお~って気分だったけどもちろんそうはいかず、カメラを飲む前に謎の液体を飲んだり、鼻に入れられたり……看護師さんは胃カメラ側の人間としてずっと声をかけ続けてくれる。

これから飲む液体の味や、入ってくる感覚。「うちの子のこと、嫌いにならないでね……」と言っているかのような丁寧な対応だった。「ちょっとピリッとするけど、悪い子じゃないから」。そう言われたらこちらもまぁ、わかってやるかという気持ちになる。そして同時に、一体今まで胃カメラちゃんはどれだけ人に嫌われてきたんだろうと考えるとなんだか少し切ない。

胃カメラの母な人

数々の準備を経て、いざ主役であるカメラが登場。お医者さんが最後の説明をしてくれ、さぁどんと来いよという時に、胃カメラの母は再度動く。「これ、握って」。それは、綺麗に小さく折り畳まれたティッシュだった。「辛いと思ったら、これを握って。そしたら大丈夫だから」。

喧嘩のお詫びみたいに手渡されたティッシュは、昔友達のお母さんにもらったハッピーターンに似ていて、私は胃カメラちゃんと一緒に遠足を楽しもうと決める。始まってからの数分間、私は何度もティッシュを握った。医学的に意味があるかはわからない。たぶんないだろう。だけど握るたびに、頑張ろうって気持ちになる。不思議と辛さは緩和される。根拠のある医療の上に、根拠のない優しさがふわりと腰掛けていることの温かさを知った。

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