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長井短「優しさ告げ口委員会」:見守りの人

演劇モデル、長井短さんが日常で出会った優しい人について綴る連載エッセイ、第19回。前回の「自転車ガチ勢の人」も読む。

text&illustration: Mijika Nagai

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湯でうろうろゆるゆるしていると、視線を感じる。昔から大浴場ではそうだった。おばさんが英語で入り方を説明してくれるから、それに合わせて外国人のふりをしたまま過ごし続けることも多い。あまり、居心地のいいことではないけど、でも大浴場が好きだと思えたのは最近のこと。

しばらく足が遠のいていた銭湯に、久しぶりに出かけてみた。やっぱり視線を感じて、私は何か、この銭湯の禁忌を犯しているんじゃないかと不安になる。でも誰も声はかけてこないし、大丈夫だろうと言い聞かせ熱い湯に浸かった。脱衣所に戻り、バスタオル代わりのタオルワンピースを身につけると、さっきまでの視線とは比べ物にならないくらいの熱い視線を感じる。

え、だめですかこれ?ビール柄ってやっぱりよくないですかね?不安になりながら目を合わせ、「こんばんは」と恐る恐る口を開けば、返ってきたのは予想外の言葉だった。

BRUTUS 長井短「優しさ告げ口委員会」 

「いいねそれ!あんたイケてるよ!」。ありゃ?マジすか?「そういうのが一番いいよ。それで帰ったらいい」。インド象柄のワンピースを着た六十くらいのおばさまは、私のラフすぎる装いを気に入ってくれたらしかった。

そこからおばさまのファッション講座が始まり、私はふむふむと話を聞き続ける。頷きながら私は、自分が他者からの眼差しを恐れすぎていたことに気づいた。

見つめるって行為を監視みたいに捉えがちだったけど、あれは見守りでもあるのだ。何か困っていないかと、私を見守ってくれたおばさまの瞳。

それは少しお節介だけど、でも温かいことには違いなくて、いつでも誰かに手を差し伸べられる距離で生きていたい。

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