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長井短「優しさ告げ口委員会」:ハンドメイドの人

演劇モデル、長井短さんが日常で出会った優しい人について綴る連載エッセイ、第11回。前回の「髭剃りの人」も読む。

Text&Illustration: Mijika Nagai

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誕生日付近の仕事はそわそわする。スタッフさんは誕生日把握能力が凄くて、何も言っていないのに絶対にバレているのだ。今年も誕生日がやってきた。その時私はドラマの撮影中で、あぁ……祝わせてしまう……私が誕生日なばっかりに……ただでさえ忙しいのに一手増やしてしまう……自分のために時間を割かれることが苦手だ。

私のような底辺の役者の誕生日なんて全然放っといてくれていい。でもそれができないのが社会だとも知っているから、私は誕生日当日、祝われる覚悟を持って現場に入った。できるだけ手短に、煩わせないようにリアクションしよう。今日もやることはいっぱいあるのだ。

予想通り、私の出演シーンの撮影が終わるとスタッフさんが大きな声で発表する。「本日長井短さんのお誕生日でーす!」。あぁほんと忙しいのにすいませんマジでごめん。「やったー! ありがとうございます!」。口に出した言葉と裏腹に心の中ではごめんが止まらない。本当すぐ帰るんで!時間取らないんで!素早くプレゼントを受け取り中を見ると驚いた。

そこにあったのはチュッパチャプスでできたブーケなのだけど、全ての包み紙が私の写真になっているのだ。衝撃のあまり時間が止まる。は?なにこれどうやってんの?唖然とする私の隣には、このブーケの生みの親である女性スタッフ、ハンドメイド姐さんが立っていた。

長井短_ブルータス_エッセイ_優しさ告げ口委員会

「凄くない?びっくりしたでしょ?」。そう言うハンドメイド姐さんの顔は満面の笑みで、驚きでぽっかり口を開けた私を面白そうに見つめている。ハンドメイド姐さんが作ってくれたの?と聞くと、昨日夜更かしして作ったという。

「一個一個貼ったから、短ちゃんで酔いそうだったよ」。日課か?ってくらいの手軽さで話してくれるけど、簡単にできることじゃない。現場でのプレゼントなんて、普通にチュッパチャプスブーケでいいのに。だってそういうものじゃん。形式としてお祝いするだけでいいじゃん。

なのに、ハンドメイド姐さんは私だけのために、数十個のチュッパチャプスに私の写真を貼ってくれたのだ。相当な労力だ。ここまでしてくれる理由は、私の喜びと、少しでも楽しく仕事をできるようにって祈りでしかない。

あぁ……姐さん……あなたがとても忙しいこと、私は知ってるよ。なのにここまでしてくれたら、もう私、めちゃくちゃ頑張るよ。できないことだってできる気がするよ。忙しくても特別さを忘れない姐さんのおかげで、私は前より誕生日が好きになった。

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