坂東祐大が語る、鶴田錦史
昨年のアニメシリーズ『平家物語』、今年は映画『犬王』や大河ドラマ『鎌倉殿の13人』に、琵琶法師が登場することから、琵琶という楽器に注目が集まっているようです。ノンフィクション本『さわり:天才琵琶師「鶴田錦史」その数奇な人生』は琵琶についての興味深い歴史を知る一冊でした。
まず鶴田錦史といえば、武満徹「ノヴェンバー・ステップス」の初演者ということで有名。ニューヨークフィルハーモニックの125周年を記念し、武満が委嘱作品として作曲。世界的に評価された楽曲です。
そもそも武満と鶴田の出会いは1965年頃。武満が映画『怪談』の劇伴に伝統とは異なる琵琶の音を入れたいと思い、鶴田と共演することになったそうです。同時期、武満は鶴田の琵琶と、尺八による二重奏曲「エクリプス」も作曲していることから、武満が琵琶の音に感化されていることがわかります。
『さわり』には、それ以前の鶴田のバックストーリーが描かれていました。まず、鶴田は昭和初期に天才女流琵琶師として、アイドル的な売り出し方をされていたこと。結婚するも、夫の浮気がもとで離婚。子供を弟子夫婦や夫に預け、クラブ経営などをする実業家に転身。戦後から男装で生活し、さらに奥さんまでいたそうで……。武満との出会い、実業家から琵琶奏者へのカムバックなど。当時のことが詳細に書かれていますが、今の時代では考えられない、すごい世界でした。武満や小澤征爾など錚々たる顔ぶれも登場しますし、ドラマ化したら面白いんじゃないかな。
それを踏まえ「ノヴェンバー・ステップス」を聴くと、尺八奏者の横山勝也と鶴田の間に間合いなど、ひとしお緊張感と才能に溢れていると再認識しました。