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ロマンティックで洒脱なレゲエ。ラヴァーズ・ロックの世界を知る

レゲエのサブジャンルであり、ポップで甘いメロディが特徴のラヴァーズ・ロック。昨年、世界初の本格的なガイドブックを執筆した若きコレクターのZunggu Zungguに、なぜラヴァーズ・ロックを掘るようになったのか、レコードを買う理由、おすすめの入門法などを教えてもらった。

text: Zunggu Zunggu

ラヴァーズ・ロックとは?

ラヴァーズ・ロックは1970年代中期に、イギリスで誕生したレゲエ・ミュージックのサブジャンルだ。主に愛をテーマにしたロマンティックな歌詞が多く、洗練された洒脱なサウンドが魅力である。

初めて聴いたのは、中学校2年生の頃。学校の近所にあったレンタル・ビデオ・ショップで偶然にも『Relaxin' With Lovers Vol. 5』というコンピレーションCDを借りたのがキッカケ。クール・ノーツの「My Tune」という楽曲を耳にしたとき、まるで雷が落ちたかのような衝撃を受けたのだ。

「こんなお洒落なレゲエがあったんだ...…」

『Relaxin' With Lovers Vol. 5』

そんな甘美な音楽は、思春期だった僕を一瞬で虜にしてしまった...…。あの日を境に僕の中でラヴァーズ・ロックという謎に包まれた音楽への知的探究心が芽生えたのである。だが、CDのみで楽曲を集めるには限界があり、いまだにCDやデジタル配信では聴くことのできない音源がたくさん世の中に存在している。だから僕のラヴァーズ・ロック・コレクションはほとんどがアナログ盤だ。

アナログ盤を集める楽しみ

現在、僕はラヴァーズ・ロックだけでも1000枚以上のレコードを所有している。何年か前まではシングル盤ばかりを集めていたが最近はアルバムにしか入ってない曲を求めてLPも買うようになった。おまけに日本人の歌手による日本語ラヴァーズ・ロックの楽曲をプロデュースするようになってから、レコードを掘る視点が、「フロアでプレイできる曲」ではなく「楽曲制作の資料となる曲」というふうに変わってきた気がする。

近年コロナ禍が続き、スタジオ・ミュージシャンを集めてのレコーディングがやりづらくなったため、昨年から打ち込みのサウンドを取り入れだしたのだが、その影響で昔に聴いていた打ち込み時代のアリワ・レーベルの楽曲が改めて大好きになった。コフィ『Black... With Sugar』、ジョン・マクリーン『Bowled Over』、サンドラ・クロス『100% Lovers Rock』。今挙げた3枚のアルバムは自分の音楽制作においてインスピレーションを与えてくれるお気に入りのレコードなのだ。

ラヴァーズ・ロックのレコードは、1970年代中期頃は7インチ・シングルだが、70年代後期からは12インチ・シングルが比較的多くリリースされている。

12インチはLPや7インチに比べて片面に刻める一曲の溝の幅が広いことから音圧が高く、収録できる分数も長い。そのため、ボーカル曲の後半にダブミックスへ接続されるショーケース・スタイルや、同じトラックで歌われたディージェイの楽曲に接続されるヤード・スタイルといった、6〜8分ぐらいのボリューミーなシングルが主流となっている。

曲が長ければフロアで抱き合って踊る男女を長い時間踊らせることができるので、当時のラヴァーズ・ロックのパーティーではとても重宝された。今みたいにターンテーブルが2台ではなく一台でプレイしていた時代なのだから、なおさらだろう。

数少ない情報を頼りにレコード・ショップへ

昔はラヴァーズ・ロックのレコード・ガイドなんてなかったから、セレクター(レゲエの世界ではDJのことをこう呼ぶ)の大先輩であるマイティー・クラウンのコージくんが作っていたミックスCD『Live Loving』シリーズを良く聴いていた。いろいろな楽曲の存在を知れて勉強させてもらったし、自分にとってはバイブル的なCDといえる。

あとは雑誌『relax』のラヴァーズ・ロック特集に掲載されている、レコードのレビューぐらい。そんな数少ない情報を頼りに毎週のように大阪にあるレコード・ショップ『DRUM & BASS RECORDS』に入り浸っていた。

レコードを買ううちに、ライナーノーツやクレジットから、プロデューサーやレーベルの情報がだんだんとわかってくる。それをもとに、また新しいレコードを買っていった。ネットオークションで買うことはあまりなく、ほとんどは実店舗での購入。一時期は、試聴してラヴァーズ・ロックっぽいと思ったレコードは、内容の良し悪しにかかわらず片っ端から買っていた(笑)。

今、個人的に一番欲しいレコードは、やはりアリワ・レーベルからリリースされているアラン・キング・ピンの『Letter from Jail』というLP。アルバム・タイトルからしてラヴァーズ・ロック感が全くないが、実は「Honey Laronie」などスウィートなラヴァーズ・ロック・ナンバーが収録されている。最近、アリワ関連のアルバムも高騰してて、おまけに探しても全然見当たらなくなってきてるから辛い(笑)。

アラン・キング・ピン『Letter from Jail』

もしあなたもラヴァーズ・ロックの世界に興味が湧いたら、まずは私が執筆した世界初の専門書『ラヴァーズ・ロック・レコード・ガイド ROMANTIC REGGAE SELECTION 1970s-1990s』をぜひ読んでみてください。近年デジタル配信でもたくさんの音源が聴けるようになっているので、レコード・プレイヤーを持っていない方も本を読みながら自分好みの素敵な楽曲を探してみてはいかがでしょうか?

あとはメネリク・シャバズ監督による映画『The Story of Lovers Rock』がオススメ。UKラヴァーズ・ロック・シーンで活躍したシンガー、プロデューサー、ミュージシャンなどによる貴重な証言が収めらたドキュメンタリー映画で、数年前に日本語字幕付きのDVDが出てます。今は廃盤になってしまってますが、オークションなどでもしかしたら見つかるかもしれません。