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毎月、数百枚の音楽ソフトを購入。若手屈指のコレクターが語るリスナー遍歴

レコードやカセットは、ここ最近のブームでだいぶ身近なものになってきた。自分の好きな音楽をモノで持っておきたい、インテリアの一つとして部屋に置きたい、といったニーズもあるようだ。しかし、そうしたトレンドとは無縁に、ひたすら大量の音楽ソフトを集め続けるのが、レコードショップ店員で音楽ライターの門脇綱生だ。あまりにハードコアなその音楽遍歴を教えてくれた。

text: Tsunaki Kadowaki

ニューエイジ、イタリアの前衛音楽、アニメ系などのコレクション

何度か断捨離していたり、新たな収集物のために毎月レコードを手放したりと、ここ10年くらい自転車操業ですが、新譜旧譜問わず毎月数百枚のレコードやCD、カセットなどを買ったりしています。

近年再評価されている日本のアンビエントや環境音楽。

今は少数精鋭のセレクトで、3000枚いかないくらいのコレクションになっています。ニューエイジや日本のアンビエント、イタリアの前衛音楽、オブスキュアなアニメ系はいいコレクションを持っていると思います。

次のレコードを買うために、多分今まで買ったレコードの8割近くは売ったはずです。京都の三条あたりにあるレコード屋数店だけで、数千枚は売ったんじゃないでしょうか。一時期あのエリアの某店の実験音楽の棚とテクノの棚は僕の売ったもので埋まっていました。もちろん、この大学時代に買った量もエグかったですね。

毎週20枚J-POPを借りるところから音楽生活が始まった

そもそもは中学2年生のとき、仮病で部活を学校ごとサボり始めたら、入院させられちゃったんです。暇を持て余してたその頃に、母親がCDをレンタルしてきてくれて。そこで触れたB'zやらレミオロメンやらが、「リスナー」としての原体験でした。

無事仮病もバレずに退院して、すぐにツタヤで毎週20枚J-POPを借りる日々が始まりました。J-POPがJ-ROCKに、次はV系やメロコアに、それがやがてオルタナやプログレに、という感じで、ゆっくり次のフェイズに聴き進んでいきました。

自覚してはいなかったけど、初めから音楽に詳しくなりたい気持ちがあったんだと思います。それを繰り返すうちに、中学3年生の終わり頃にはベタなJ-POPだけで5,000曲はiTunesに入っていましたね。その頃に集めていたJ-POPは最近レフトフィールドな音楽視点から捉え直してみたら、改めて発見がありました。

1990年代後半から2000年代前半頃を中心に、当時のブリストル・サウンドなどを意識した「変なJ-POP」をセレクトしたプレイリストです。

衝撃的な先輩との出会い

浪人生時代から、〈P.S.F.Records〉や〈Alchemy Records〉といった日本のノイズやサイケ、フリー・ミュージックや、デス・グリップスやclippingなどの当時の最新の音楽も聴いていたのですが、大学に入学した直後に、音楽的にも人生観的にも、今もお世話になっている先輩との、忘れられない衝撃的な出会いがありました。

その先輩は、既に当時マニアの間で注目されていたアングラなカセット・カルチャーの周辺や、現行のエクスペリメンタルとかを聴いているツワモノで。「自分は日本一音楽詳しいのでは!?」と慢心してた僕に、「大して音楽詳しくないじゃねえか!! 舐めてんのか!!」と、マジで言われました。

初めて会ったその日のうちに、当時の最新の実験音楽とかノイズとかアンビエントとかを一日で150曲もYouTubeリンクを聴かされて、ついでにライブラリーに入ってたJ-ROCKとかをほぼ削除されました(笑)。Inga Copeland、Millie & Andrea、Black Leather Jesus、Dirty Beaches、そのとき聴かされた音楽は新たな原体験です。その頃先輩はスタンス的に特に尖っていた時期で、僕もその影響を受けました。

「insult 2 injury」は、そのとき先輩に聴かされた曲。

それで、一度まっさらになって。それでも、何としても「勝ちたい!」という思いから、気になったアーティストやバンドのLast.fmの関連アーティストを毎日何十、何百ページも見て、YouTubeで聴くという、今自分がやってる掘り方にも通じる、より本格的なディグの日々がこの頃から始まったんです。

その頃今働いている〈Meditations〉に通い始めたり、〈Big Love Records〉〈Art into life〉〈She Ye Ye Records〉といったレコード店のサイトを毎日のように覗き始めるようになりました。

先週買ったレコードを売って、その足でレコードを買いに行くとか、資金は今度つくる前提で後払い機能で買うとか、今も続いてるというかむしろエスカレートしてる、壮大な自転車操業の人生がその頃から始まった感じでした。

そして、絶対に外せないのが、先人のディガーの方々の存在。挙げきれないですが、Chee Shimizuさん、仲真史さん、舘脇悠介さん、増子亮太さん、青栁伸吾さん、忌部耕太さん、佐藤憲男さん、松本章太郎さん、Diego Olivasさんといった方々から受けた影響は計り知れません。

音楽ライターの門脇綱生が敬愛する方々の著作
上記の方々の著作

今はネットでのディグが中心

今は地元にいるということもあり、ブックオフなどの実店舗は回転も入荷量も全然なので、必然的にネットでのディグが中心になります。

週末には駿河屋が代引き&送料無料キャンペーンとセールを行っているので、毎月アニメのサントラとかを数百枚ジャケ買いして全部聴いて、音楽的にハズレの98%くらいは売りに出します。メルカリやヤフオクに出品されてるレコードやカセットも、買えるかは別としても何時間もかけて「上から全部」見ます。これは今出版に向けて準備しているオブスキュア目線でのアニメ・サントラやイメージ・アルバムのディスクガイドのための日課ですね。Spotifyでも関連アーティストを全部聴いたり、レーベルを丸ごと聴いたりします。

あとアマゾンは、噂で聞いた話、過剰在庫をAIが自動的に値下げするそうなんです。そうやって、3000円から700円とかに値下げされた近年の実験音楽の新譜のLPとかも、何百枚とピックしたりしてきました。ただこれは、ツイートしすぎちゃったからか、メディアでも取り上げられてしまいまして(笑)、明らかにライバルを増やしてしまいました。

大都市の人には勝てないけど、ネットでできるディグは全部やっておきたい。いつかは、真の「ディグ」をしてみたいっていう夢があります。一度すべてを体系化するくらいの気持ちで、自分の「ディガー」としてのスタイルや美学を育みながら、新たな領域を更地から整備して、新しい次元を提示するレベルのこと、先人の方々がやってきたことを自分もいつかしてみたいんですよね。

次に出す予定のそのアニメ系のディスクガイドでは、そうした「ディグ」に前の本より一歩近づきたいという思いがあります。そして、その先のディグではさらに一歩深める、そうしたサイクルに身を置いて研鑽しながら、初心を忘れず、みたいな、そうした生き方が出来たらいいなと。

アニメ系のプレイリストは、凄く尖っていて面白い誰も知らない、その角度から見てはいないであろう曲たちをたくさん詰めてあります。BRUTUSを読んでいらっしゃるような好奇心旺盛な方にも気に入っていただけるかもしれないので、この機会にぜひ。