博物館では、常設展示物をまとめた「展示案内」や、特別展の内容をまとめた本、独自に企画した本などを出版している。これらの本は、地域性が非常に高い。そのためいい意味で読む人を選ぶ。必要ない人にとっては、全く興味をそそられない内容の可能性もある。逆を言えば、少しでもその地域について知りたいと思えば、これ以上ない有益な本なのだ。
例えば、斜里町立知床博物館が出している『地名探訪 しゃり』では、斜里町の土地につけられているアイヌ語地名を写真や地図と共に説明。オタモイという地名が「砂浜の入り江」を意味するようにアイヌ語地名は地形を表すことが多い。しかし開発などで地形は変わり、地名が意味する地形がなくなってしまったところも。
それらをまとめ出版し、多くの人の手元に残すことは記録と記憶を次世代につなぐ、非常に意義のあることと言える。つまり地域性の頂点のような本なので、いい意味で一般の書店に並ぶような内容ではないということ。ただ、こういう本が手に入るのが、博物館の面白いところでもあるのだ。
ちなみにこの『地名探訪 しゃり』は斜里町にテーマを絞った『郷土学習シリーズ』の一冊で、このような内容の本が20巻も出ている。深掘りがすぎる良書だ。また、もう一つに専門性が高いことも博物館の本の特徴に挙げられる。『地名探訪 しゃり』もそうだし、徳島県立博物館の『祖谷─その自然とくらし─』では時代別の全国の焼き畑の分布のデータを提示するなど、多くの人には直接関わりがなさそうなデータが掲載されている。どの本も専門性は高いが、一般の人でもわかる言葉で書かれているので理解はたやすい。
博物館の本でなら、現地に行かなくても何度でも、裏付けのある歴史や文化に出会える。そして大抵、重版はない。一度刷ってそれがなくなれば終わりだ。「今度買おう」が通用しない。出会った瞬間に買った方がいい。博物館の本は一期一会だ。